誰も知らないもうひとつのシンデレラストーリー
「妃花、これ見て?」

「もう描けたの?早すぎない?」


言いながら自分の絵から目を離し、

隣で差し出してくるスケッチブックに目を向ける。


「…っふふ」


思わず、大きな笑い声が出てしまいそうになり、

慌てて押さえたけど、堪えられなかった小さな笑い声が漏れてしまった。


「おい、静かにしろよ」


わざとらしく注意をしてくる皇輝に、私は笑いを堪えて首を振る。


「だって、無理だよ。可笑しすぎ。」


目の前にある、私達の見本はリンゴ。

リンゴのデッサンをしているはずなのに、皇輝が描いたリンゴには、

悪だくみをするようなにやりと笑った顔が描かれていて、

その絶妙に上手な表情が面白かった。


笑いを堪えていたせいか、少し滲んだ涙を拭いながら、深呼吸をする。


「やっぱ、笑った顔が最高」

「うるさい」


また、調子の良い事ばっかり言って。

呆れながらも笑顔で返すと、皇輝は満足そうに笑っていた。


そんな私達のやりとりは、言わずもがなクラスに注目されていて。


「妃花、あんな風に笑うんだね。」

「なんかちょっと、お似合いかも?」

「あんなにイケメンなのに、見る目もあるのずるくない?」

「妃花ちゃん、大人しいけど、性格はめっちゃいいもんね」


少し、応援するような、そんな空気が流れ始めていた。
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