誰も知らないもうひとつのシンデレラストーリー
「待って、待って、妃花!!」


直ぐ追いかけてきた皇輝に、私は階段の踊り場で足を止めた。


「妃花、もしかして…」

「言わないで!!」


自覚してしまった自分の気持ち。

だけど恥ずかしくて信じたくなくて、私は声を荒げた。


皇輝は、言葉を止めて、静かに階段を近くまで上がってきた。

下から見上げられて、うつ向いていても顔をのぞかれてしまう。


「やきもち、やいてくれた?」


言われたくなかったのに、そう聞かれてしまった私は顔を真っ赤に染めた。


「…っ、ち、ちが…」


嘘だと丸わかりの意味のない否定に、皇輝はすーっと小さく息を吐いた。

ため息にも聞こえるその呼吸に、私は、少し泣きそうになる。


「…はあ、どうしよう、抱きしめたい」

「えっ」


想定外の言葉に驚いているうちに、私の体はふわっと包まれた。

男の子とは思えない、爽やかな石鹸の香りに、私は目を見開く。


「ごめん。もう二度としない。妃花が嫌がること、絶対しないから。」


驚きと共に、ゆっくりと安心感が沸き上がってくる。

それと同時にスーッと消えていくさっきまでの不可解な嫌な気持ちに、

私は諦めたように、彼の背中に腕を回した。


ああ、最悪だ。私、人気者のこの人を好きになってしまったんだ。

絶対に似合いっこない、物語だったら身分違いの恋をしてしまったんだ。
< 52 / 95 >

この作品をシェア

pagetop