誰も知らないもうひとつのシンデレラストーリー
「あ、いらっしゃったようね」


農場の入り口からにぎやかな笑い声が聞こえ、お姉さんは、立ち上がります。

それを真似るように私も立ち上がり、お姉さんの隣に並びました。


「いらっしゃいませ」


一斉に挨拶をしピシッと揃って頭を下げる使用人の方々に、ワンテンポ遅れて私も頭を下げます。

その後は、お姉さんの指示に従って引き続き作業に戻りました。


「王子様、立派な農園ですね」

「ええ、母上のこだわりです。僕もここは好きな場所なんです。」


草と向かい合って作業に集中していると、

聞き覚えのある声が近づいてきて、少女は少し顔を上げます。


いつもとは少し違う丁寧な言葉遣いを並べ、控え目に笑う王子様が、そこには居ました。

客人に向ける笑顔の高貴さに、少女は改めて王子様の立場を認識します。


「素敵です!この木には何がなるのですか?」

「王子様!私のお屋敷にも農園がありますの、宜しければぜひお越しになって?」

「王子様!」


そして、それを取り囲むように、周りには大勢の女性たちがいらっしゃいました。


来賓の方と聞き、なんとなく、偉いおじさま方が訪れるのだと想像していた少女。

想像とは全く違う若く眩しい女性たちの来場に、少女は少し胸がざわつくのを感じます。


「え!凄い、あのお花はなんですか?すっごく素敵です!」


王子様に話しかけようと後ろから走り出した一人のお嬢様。

彼女は、農場で走るには危ないような高いピンヒールを履いていて。


「あっ…」


お嬢様は、草に引っかかりバランスを崩しました。


「っと」


畑に向かって倒れ込んだいくお嬢様を、王子様は両手で受け止めました。

さっきまで無邪気に走っていたお嬢様は、人が変わったように、顔を真っ赤にして抱き留められます。


「お気を付けください。足場が悪いので…」


そっとその体制を直し、足元に目を向けた王子様。

そして、そのお嬢様の前にしゃがみ込み、汚れたその靴を、自身のハンカチでさっとふき取ります。


「綺麗な靴を汚したら大変です。ゆっくり行きましょう」


柔らかな微笑みに、そのお嬢様だけでなく、周りにいたたくさんのお嬢様も顔を赤らめました。
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