【完】クズな彼の危険すぎる偏愛から逃げられない
藍くんに返さなきゃ、と思ったけれど、ふとその手が止まる。
なぜか、シャツから香る匂いに強烈に引き寄せられたんだ。
ひとりきりなのについまわりにだれもいないのを確認し、「失礼します……」とつぶやきながら、シャツにそっと鼻を近づけた。
ワルイことだとわかっていたけれど、つい手を伸ばさずにはいられなかった。
途端、藍くんのムスクのような甘い匂いが鼻腔を満たす。
香水や柔軟剤のものではないのに、なんでこんなに甘いんだろう。
甘いけれど男らしくもある。
藍くんの家から出てくる女の人たちもみんな、この匂いを纏っていたっけ。
嗅覚は、感じたことのないなにかを身体の奥から引きずり出す。
藍くんの香りに包み込まれていると、突然びりびりっと身体の芯が痺れる感覚を覚えた。