【完】クズな彼の危険すぎる偏愛から逃げられない
緊張とドキドキは最高潮に達し、気を紛らわせるように声をあげる。
「あい、くん……」
「ん?」
「なんでこんなに、キス慣れてるの……?」
すると藍くんの細い親指が、わたしの唇をくいっとなぞるように拭う。
「言っとくけど、ファーストキスはお前だから」
――その瞬間、ある日の記憶の蓋が開いた。
発情した時が藍くんとの初めてのキスではない。
もっと前に、わたしは藍くんに唇を奪われたことがある。
天気雨の日。
初めて藍くんの頬を叩いた日。
初めて藍くんを怖いと思った日。
わたしたちの中で、なかったことにしていた日。
藍くんのファーストキスがわたしだったなんて知らなかった。
ずっと、そんなわけないと勘違いしていた。