【完】クズな彼の危険すぎる偏愛から逃げられない

緊張とドキドキは最高潮に達し、気を紛らわせるように声をあげる。


「あい、くん……」

「ん?」

「なんでこんなに、キス慣れてるの……?」


すると藍くんの細い親指が、わたしの唇をくいっとなぞるように拭う。


「言っとくけど、ファーストキスはお前だから」


――その瞬間、ある日の記憶の蓋が開いた。


発情した時が藍くんとの初めてのキスではない。

もっと前に、わたしは藍くんに唇を奪われたことがある。


天気雨の日。

初めて藍くんの頬を叩いた日。

初めて藍くんを怖いと思った日。

わたしたちの中で、なかったことにしていた日。


藍くんのファーストキスがわたしだったなんて知らなかった。

ずっと、そんなわけないと勘違いしていた。
< 26 / 296 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop