【完】クズな彼の危険すぎる偏愛から逃げられない
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「ゆるるん、ずいぶん張り切ってるね」
「え、あ、そうかなぁ」
家庭科の調理実習中。
腕を奮ってボウルの中のチョコ味の生地をかき混ぜていると、それに気づいた瑛茉ちゃんに声を掛けられた。
瑛麻ちゃんは、高校に入学して同じクラスになってからずっと仲のいい親友。
ポニーテールがトレードマークのしっかり者の女の子だ。
今日の調理実習の課題はチョコチップたっぷりのカップケーキ。
ひとつは先生に提出するものの、もうひとり分作ることが許されている。
だからみんな、恋人や他クラスの友達のために作ったりしているんだ。
瑛麻ちゃんはにやにやした顔で、わたしの耳に口を寄せてきた。
「もしかして藍先輩の分でも作ってるの?」
瑛麻ちゃんの口から出てきた思いがけない名前に、わたしは授業中にも関わらず、思わず声を張り上げた。
「あ、藍くん……っ?」
教室中の視線を浴び、わたしは思わず首を竦め、潜めた声でごにょごにょと否定する。
「藍くんは関係ないよ……」
瑛麻ちゃんだけは、わたしのお隣さんが藍くんだということを知っている。
女子生徒から熱狂的な人気を集める藍くんのお隣に住んでいると他の女子にバレたら、命の危機も危ぶまれるので、他には公言していない。