【完】クズな彼の危険すぎる偏愛から逃げられない
その声につられて、ふとそちらを見ると、手を繋ぎ一緒に買い物をしている親子連れを見つけた。
幼稚園バックを背負った女の子に、お母さんは笑いかける。
「いいわよ、ひとつだけね。注射を頑張ったご褒美」
「やった~!」
嬉しそうに飛び跳ねる女の子。
微笑ましい光景がそこに広がっている。
わたしにだって、あんなふうにお母さんと手を繋ぎ、笑顔を向けてもらう時代はあった。
でも日に日に、記憶の中のお母さんの笑顔の輪郭がぼやけて、上手に思い出せなくなっている。
『由瑠は私に幸せを運んでくれる天使なのね』
いつだったか、お母さんが幼いわたしを抱きしめ優しい声でそう語りかけたことがあった。
この時、わたしはお母さんの笑顔を守るぞって、小さな使命感を抱いたんだ。
それなのに、どうしてわたしを置いていったの、お母さん──。
言葉にならない思いは消化されないまま胸の底に落ちていった。