【完】クズな彼の危険すぎる偏愛から逃げられない
だれかの足音が背後から聞こえてきた。
アスファルトの地面に向けていた視線で振り返れば、真面目そうなサラリーマンが歩いてくるところで。
けれどその目は虚空を見つめているかのように焦点が合っていないようだ。
「甘い匂いがするな……。フェロモンか?」
彼の声に、ぞくっと背筋に氷水を差し込まれたような悪寒を覚える。
……まずい。
わたしは肩に掛けたスクールバックの持ち手をぎゅっと握りしめる。
"特別体質"が発するフェロモンは、男性を惑わす作用があるのだ。
目の前のこの人の瞳は、まさに理性と我を失いかけているように見えた。
逃げなきゃ。
頭の中に危険信号が灯り、わたしは逃げるように足を速める。