The previous night of the world revolution~F.D.~
まずは…えぇと、そうだな…。

「これなんかどうですか?どんぐり粉で作った、素朴な甘さの薄焼きビスケット。お茶請けにぴったりだと思いますよ」

ほら、試食もあるぞ。

試しに一枚食べてみたけど、どんぐり粉のほろ苦さの中に、天然素材のほのかな甘さを感じる。

うん、大人のお菓子って感じ。

濃い味の紅茶やコーヒーに合わせたら、美味しいんじゃないだろうか。

「ほら、マリーフィアさんも」

「えぇ…」

試食用のビスケットを一枚取って、マリーフィアに渡す。

マリーフィアは渋々口に入れたが、露骨に顔をしかめた。

「う…。…全然甘くない。苦いですわ…」

…駄目か。

確かに、ルティス帝国に売られている、一般的なビスケットに比べたら、かなり甘さ控えめですけど。

俺は、これでも充分甘さを感じられるけどな。

この女、祖国で砂糖を食べ過ぎて、舌が麻痺してるんじゃね?

「ジャムやメープルシロップをつけて食べたら、美味しいんじゃないですか?」

「そうですわね…。…何も買わない訳にはいきませんし…。じゃあ、これを買って帰ることにしますわ…」

渋々といった様子で、味薄ビスケットをカゴに入れるマリーフィア。

ムカつくくらい贅沢な女だ。

「お母様には、何を買って帰ったら良いと思います?」

…お母様?

「マリーフィアさんのお母様ですか」

「えぇ」

つまり、俺にとって姑に当たる人物か。

そして、カミーリア家の当主でもある。

結婚式で姿は見たけれど、ちゃんと顔を合わせて話したことはまだないな。

ここは気の利いたお土産を買って帰り、姑に良い印象を抱いてもらいたいものだ。

しかし、箱庭帝国産のお土産物屋で、気の利いたお土産を探すのは至難の業である。

「…これなんかどうですか?木の実と鳥の羽根を加工して作ったブローチ…」

「うーん…。…何だか安っぽいですわ」

安っぽい、だとよ。

そういやこいつら、代々宝石を取り扱う貴族なんだっけ。

ダイヤモンドの輝きに目が眩んで、素朴な美しさというものを理解出来なくなっている。

「そうですか?たまには趣向を変えて、こういうブローチもお洒落だと思いますけど…」

人がつけてるお洒落なアイテムを身に着けて、自分もお洒落になった気になるのはド素人ですよ。

常に人とは違う美しさを追求し、自分だけのお洒落を見つける。

これが、真にお洒落な人なのだ。

俺が言うと、説得力が違うでしょう?

「そうですの…?じゃあ…ルナニアさんがおすすめしてたって、お母様に言っておきますわね」

俺に責任を擦り付けようとするとは、良い度胸だな。

これまた渋々といった様子で、天然素材のブローチをカゴに入れるマリーフィア。

「他には、どうします?」

「そうですわね…。…あ、そうだ。お姉様にも何か、お土産を買って帰ろうかしら」

…姉?
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