The previous night of the world revolution~F.D.~
俺とアリューシャは今、『青薔薇連合会』所有の狙撃場にいる。

地面に伏せて、スナイパーライフルのスコープを覗きながら、数メートル先の空き缶を狙っているのだが…。

「…くっ…」

ここぞ、と思って引き金を引いたのだが。

俺の撃った弾(実弾ではなく、模擬弾である)は、空き缶の上を虚しく通り過ぎて、壁に当たってこてん、と落ちた。

…駄目か。

「ふはは。ルル公へったくそー」

「ぐっ…!」

アリューシャに馬鹿にされるとか、こんな屈辱があるか?

しかし、こればかりは言い返せない。

だって。

「この程度の距離なら、アリューシャ、スコープ無しでも当たるぜ」

アリューシャは愛用のスナイパーライフルを頬に当て、軽く一発。

すこーん、と音を立てて空き缶が吹っ飛んだ。

すげぇ。さすかの腕前。

「やったぜ!すげーだろルル公」

ムカつくドヤ顔のアリューシャ。

「はいはい、凄い凄い」

「お?何だ、アリューシャの実力を疑ってんのか?空き缶なんて的がデカ過ぎるな。何なら、ペットボトルのキャップでも当てられるぜ」

「嘘つけ。話を盛り過ぎだろ」

ペットボトルのキャップなんて、どれだけ小さいと思ってるんだ。

いかにアリューシャと言えども、簡単に当てられるはずがない。

しかし、アリューシャは有言実行とばかりに。

「おーい。ちょっとそこの君」

「は、はい?何でしょう、アリューシャさん」

「ちょっと、ペットボトルのキャップをセットしてくれ」

近くにいた部下に、ペットボトルのキャップを的に設置してくれるよう頼んだ。

おい。本当にやるのかよ。

「えっ…。ペットボトルのキャップ…ですか?」

部下、困惑。

当たり前だ。そんなの当たるはずがない。

「良いから、良いから。置いてくれって」

「そ、そこまでおっしゃるなら…。え、えぇっと…。何処に?手前に置きましょうか…?」

「何言ってんだよ。一番遠くに頼むよ」

「えっ…」

部下は「本当に良いんですか?」と言わんばかりの困惑した表情で。

それでも、幹部のアリューシャに言われれば拒めるはずもなく。

わざわざ狙撃場の端っこまで走ってくれて、ペットボトルのキャップを設置してくれた。

「よーし。じゃあ撃つか〜」

「…絶対無理だろ…」

ここからあのペットボトルのキャップまで、何メートルあると思ってるんだよ。

目視で確認してみたけど、ペットボトルのキャップなんて豆粒みたいにしか見えない。

あんなの当たるはずがない。仮に当たったとしても、その前に何発も外すはず…。

…しかし。

スナイパーライフルの引き金に指をかけ、狙撃の体勢に入るなり。

アリューシャは、スナイパーの目になった。

普段のふざけた態度のアリューシャと比べると、まるで別人である。

アリューシャらしからぬ、真剣なその姿に一瞬臆したが。

それ以上に俺は、次に起きたことが信じられなかった。
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