The previous night of the world revolution~F.D.~
「いただきまーす」

「…良かったな…」

嫁の作ってくれたお弁当を前に、最高に良い笑顔で箸を手に取った。

小学生が、遠足でお弁当食べる時みたいな。無邪気な笑顔。

幸せな奴だよ、お前は。

「見てください、ルルシーさん。今日はコロッケ弁当なんですよ」

自分で食べるだけじゃ喜びを抑えきれないのか、俺にお弁当箱を見せびらかしてきた。

「そうか…。それは良かったな…」

「冷めても美味しく食べられるように、いつもしっかりめに味付けしてくれてるんですよ。お陰で、凄く美味しいです!」

「…そうか…。それは良かったな…」

それ以外に俺、なんて言えば良いの?

「良かったら、ルルシーさんも食べてみますか?」

えっ?

ルヴィアは、俺の前にお弁当箱を差し出してきた。

「いや、俺は…」

「美味しいんですよ、本当に。是非食べてみてください。さぁさぁ、是非」

この感動を、誰かと共有したいとでも言うのだろうか。

めちゃくちゃ推してくる。

でも、他人の愛妻弁当に手を付けるのは、何だか無粋な気もするんだが…。

…。

…分かったよ。

「じゃ、ひとくちだけ…」

俺はルヴィアのお弁当箱から、コロッケをちょっとだけ摘まみ食いさせてもらった。

ごめんな、ルヴィア嫁。俺に摘まみ食いされる為に作ったんじゃないだろうに。

「どうですか?美味しいでしょう?」

「…!本当だ。美味い…」

ちゃんとじゃがいもを茹でて潰して、イチから作っているのだろう。

冷凍のコロッケとはまるで違う。

じゃがいもを荒く潰しているお陰で、ほくほくとした食感が残っている。

さっきルヴィアが言った通り、味付けもしっかりめについていて、冷めていても美味しい。

しかも、これ…。

「不思議な風味があるな…。何なんだ?これ…」

「あ、それは多分、嫁が隠し味に入れてくれたスパイスですね。ナツメグって言うらしいです」

と、ルヴィアが教えてくれた。

へぇ、ナツメグ…。

俺も料理を作る者の端くれとして、聞いたことあるぞ。

ハンバーグとかに入れるスパイスだよな?

まぁ、スパイスなんてお洒落な食材…俺は滅多に使ったことないけど。

ぶっちゃけ、こんなスパイス、入れても入れなくても大して味は変わらないだろ、と思っていた。

でも実際に食べてみると、全然違うな。

格段に風味が良くなっている。

スパイスを上手に使える人って、めちゃくちゃ料理上手って感じするよな…。

「美味いな…。やっぱりお前の嫁は料理がじょう、」
 
「でしょう!?そうなんです。可愛いし、料理も上手いし、裁縫も出来るし、何より可愛いし、もう何もかも完璧で最高に可愛い嫁なんです!」

ちょ、唾。唾飛んできてんだけど。

しかも、可愛いだけ3回も言ってるし…。

そうだった。ルヴィアに「嫁」は禁句なんだった…。

相変わらず仲良さそうで何より…と、思ったその時。

「…ん?」

俺は、ルヴィアの弁当箱に入っている卵焼きに視線が行った。
< 126 / 522 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop