The previous night of the world revolution~F.D.~
しかし、勿論そんな本音は口に出来ないので。

「とても上手でしたよ、マリーフィアさん。ありがとうございます」

笑顔でお世辞を言わなければならない苦しみよ。

あぁ、本音を言いたい。「ピアノに謝れ下手くそ!」って言いたい。

心の中で言おう。我慢、我慢。

もう二度と聴きたくない。

「脱線させて済みませんでした。マリーフィアさん、屋敷の案内を続けてもらえますか?」

「あ、はい分かりましたわ」

まさかの二曲目が始まったら大変、とばかりに屋敷内の探索を再開。

次に向かったのは書庫だった。

「ここが書庫ですわ」

「へぇ…。本がたくさんありますね」

背の高い本棚に、古い本がぎっしりと並んでいた。

見たところ、ルティス帝国の歴史とか、文化とか、諸外国との交易の歴史とか、そういうつまらな、いや。

ルティス帝国に関する本がたくさん。

「この本は、マリーフィアさんが読むんですか?」

「いえ、わたくしは…こういう本は、あまり好きじゃありませんの」

あ、そう。

マリーフィアに本を読む習慣がないのは明白だった。

だって、この書庫に並んでる本。

よくよく見たら、どれもこれも埃を被って、ページが変色している。

長い間、この本棚の中で放置されていたという動かぬ証拠である。

読んでやれよ。読まないと本は痛むばかりだぞ。

「でも、お姉様はたまに書庫に来て、調べ物をしたり、暇を潰したりしてるみたいですわよ」

「そうですか…」

この屋敷の中で、唯一のインテリなんですね。メリーディアは。

俺も本は嫌いじゃないですよ。…ルティス帝国に関する本は御免だが。

「この書庫にある本は、どれでも好きなように読んで構いませんわよ。ルナニアさんも、興味があったら是非」

「そうですね。そういうことなら、利用させてもらいますね」

俺は、にっこり笑ってそう答えた。

俺の睨んでいる通りなら、この書庫…案外捨てたものではない、かもしれない。

書庫を出た俺とマリーフィアが、次に向かったのは。

「それから、次は…。…あ、でも、ここはいいですわね」

マリーフィアはその部屋の前で足を止め、くるりと踵を返した。

…ほう?

「どうしたんですか?マリーフィアさん…。この部屋は案内してくれないんですか」

「え、えぇ…。大したものはありませんから」

ふーん。逃げるじゃないか。

だが、そうは行かないぞ。

この部屋こそ、俺がカミーリア家で何より「ご案内」して欲しい場所なのだから。

「…済みません。俺、昨日屋敷の中を彷徨ってた時に、この部屋に入ってしまって…」

「…!」

「中に…大きな金庫がありましたよね。あれって、一体何なんですか…?」

逃げようったって、そうはいかないぞ。

きちんと、納得の行く説明をしてもらおうか。
< 143 / 522 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop