The previous night of the world revolution~F.D.~
しかし。

意気揚々と出勤しようと、屋敷を出ていこうとした直前。

「…行くの?」

「はい?」

突然背後から声をかけられて、振り向くと。

そこには、険しい顔をしたメリーディアさんが立っていた。

お見送りですか。ご苦労なことですね。

「あぁ、メリーディアさん…。おはようございます」

俺がこんなにも、爽やかに挨拶したというのに。

メリーディアは相変わらず険しい顔のまま、俺を睨んでいた。

「どういうつもり?」

「…何がですか?」

「あなた、本気で帝国騎士団に戻るつもりなの?」

「勿論、そのつもりですよ」

この制服を見たら分かるだろう。

「何を企んでるの?」

この女は、俺が何をしようと何か企んでいるようにしか見えないらしい。

確かにその通りですけど、疑われるのは心外ですね。

俺は苦笑いをして答えた。

「何も企んでなんかいませんよ。どうしてそう思うんです?」

「帝国騎士団は、かつて自分を捨てた組織でしょう。どうして、そんなところに戻る気になったの?」

…へぇ。

あなただけは、まともな感性を持ってるんですね。

その言葉、あなたの義理の母親に言ってやってくださいよ。

俺だって、戻りたくて戻るんじゃない。

あんたの継母が勝手に、俺の気も知らずに帝国騎士団に戻ることを決めたんですよ。

「…そうですね。思うところがない…訳じゃないですけど」

俺は、わざと神妙な顔をしてみせた。

思うところがないどころか、あんな奴ら全員死ねば良いと思ってますけどね。

「でも、折角お義母様が良かれと思って、骨を折って俺が帝国騎士団に戻れるよう口添えをしてくださって…。お義母様の労に報いる為にも、俺はもう一度信じてみたいと思ったんです」

「信じる…?」

「えぇ。帝国騎士団の掲げる正義。かつて俺が信じた正義が、まだそこにあると」

「…」

我ながら、最高に白々しい台詞である。

帝国騎士団の掲げる正義(笑)。

そんなものが、本当にこの世に存在するとでも?

「だから、あなたも俺を信じてくれませんか。メリーディアさん」

「…そんなこと…」

「無理、ですか?…分かりますよ、かつては俺も、そう思ってましたから。無実の罪で帝国騎士団を追い出され、実家から追放された時も」

敢えてその時の話を出すと、メリーディアはハッとして俺を見つめた。

よし、食いついたな。

「今のあなたと同じように、何も信じられなくなりました。もう二度と、誰かを信用しない…。世界に絶望して、そう思い込んでいたんです。…でも、そうじゃなかった」

これは、あながち嘘って訳じゃありませんよ。

帝国騎士団を追い出され、精神病院に入院していた間の俺は、何も信じられなかった。

毎日のようにお見舞いに来てくれる、ルルシー以外の何も。

「俺は、自分を信じてくれる人に出会いました。愛しいマリーフィアさんと、心優しいカミーリア家の人々に」

「…」

「あなたのことも、です。メリーディアさん」

俺は優しい微笑みを浮かべて、メリーディアの手を取った。

メリーディアは、その手を振りほどかなかった。
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