The previous night of the world revolution~F.D.~
誰がやったのか知りませんけど、また大層なものを盗みましたね。
 
「ぬ、盗んだって…誰が…?」

きっと大怪盗でしょうねぇ。

「そこまでは分からん。これを俺のもとに持ってきた奴も、誰が盗んだのかまでは言わなかった」

と、ジュリスさん。

まぁ、そうでしょうね。

「ただ、『ローズ・ブルーダイヤ』を手に入れたから、これを闇に売り捌いてくれと依頼された」

「ジュリスさんは、それを承知したんですか?」

「承知はしてない。あくまで保留だ。…このダイヤを取り扱うのは、あまりにリスキー過ぎる」

「…」

…それは正しい判断ですよ。ジュリスさん。

あなたはよく分かっていらっしゃる。

このダイヤは、普通の宝石とは違う。

あまりに異質過ぎる。

世界に一つしかないというダイヤ。その希少性故に、金に糸目を付けず欲しがる者は大勢いるだろう。

それは自ら犯罪に手を染める行為に他ならない。

このダイヤは、あくまで盗品だ。売る側も、買う側も、関わった瞬間に重大な犯罪に巻き込まれることになる。

「知りませんでした」は通用しない。

現状、カミーリア家から『ローズ・ブルーダイヤ』が盗まれたという情報は、世間には広がっていない。

しかし、遠かれ早かれ、いずれこのニュースは帝国中に広まることだろう。

そして、各機関が盗まれたダイヤの行方を血眼になって探すことになる。

見つからなければ、遠からず、帝国騎士団も出張ってくるだろう。

あいつらと進んで事を構えたい奴が、何処にいる?

裏社会ではそこそこ名の通っている『オプスキュリテ』でも、帝国騎士団に目をつけられれば、さすがにひとたまりもない。

「そもそも、ウチは武器商人だ。宝石なんて専門外なんだよ。それなのにわざわざウチに持ち込まれて…こっちも迷惑してるんだ」

ジュリスさんは、溜め息混じりに頭を掻きながら言った。

でしょうね。あなたは特に、避けられるリスクは、骨折りしてでも避けたいタイプでしょうから。

「大体、『ローズ・ブルーダイヤ』だと言って持ち込まれたしたものの、本物かどうかも分からないし…」

「…分からないのか?確かめられないのか、それ」

ルルシーが尋ねた。

「俺達は素人だから分からないけど…。裏社会の宝石鑑定士に見せれば、本物か偽物かくらいは分かるんじゃ…」

「えぇ。見れば分かるでしょうね。…見ることが出来れば、ですが」

「…どういう意味だ?」

この宝石の厄介なところは、世界に一つしかないという希少性だけではない。

本物なのか偽物なのか、確かめることすら容易ではないのだ。

と、言うのも…。

「開けられないんですよ、ルルシー。このジュエリーボックスは」

俺は、その小さな黒いジュエリーボックスを指で差しながら言った。

ダイヤの実物を見ることが出来れば、何も宝石鑑定士でなくても。

ちょっとした宝石を齧ったことのある人物であれば、本物かどうか見極めることは、さほど難しくない。

『本物』の宝石は、その輝きからして模造品とはまるで違うからだ。

俺とて、これでも裏社会の夜を司る者として、宝石の良し悪しを見極めるくらいのことは出来る。

それは恐らく、ジュリスさんも同様だろう。

それでもなお、俺達にこの『ローズ・ブルーダイヤ』が本物かどうか見極められない。

その理由は、ダイヤを見たくても、まずジュエリーボックスが開けられないからなのだ。
< 24 / 522 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop