The previous night of the world revolution~F.D.~
やはりな。

そういう…一種の「抜け道」があるんじゃないかと思っていた。

口頭だけで開け方を伝えるのは難しい。

いくら教えられたとしても、所詮は人間なのだから、間違えることはある。

一子相伝故の難しさもある。

跡継ぎに開け方を教える前に、当代の当主が亡くなったら?

跡を継がせるべき子供が生まれなかったら?あるいは、生まれても成長する前に死んでしまったら?

一度でもそういう「事故」が起きたら、『ローズ・ブルーダイヤ』は永遠に失われてしまう。

そうならない為の保険は、絶対に必要だ。

案の定、保険は用意されていた。

それが、代々の当主に伝わっている、『ローズ・ブルーダイヤ』の開け方を記した手引き書だった。

「その手引き書を読めば、開け方が書いてあるんですの。迷わずに開けられますわ」

本来はそんな重大な秘密、家族と言えども、簡単に話して良いことではない。

それなのにマリーフィアは、俺におだてられてすっかり気を良くしているようだ。

「そうなんですね…。それ、メリーディアさんも知ってるんですか?」

「いいえ。お姉様は知りませんわ…。だって、お姉様はカミーリア家の直系の子供ではありませんもの」

それを言うなら、俺は完全によそ者ですけどね。

あっさりと手引き書の存在を明かす、馬鹿な直系跡継ぎ様に比べたら。

メリーディアは、もっと慎重で賢明だと思いますけど。

「俺も、カミーリア家の嫡子ではありませんよ?」

「でも、ルナニアさんはわたくしにとって、とても大切な方ですから…特別ですわ」

「そうですか。それは光栄ですね」

本当に光栄ですよ。

お陰で、非常に重要な情報を得ることが出来た。

「その手引き書は…マリーフィアさんが、大事に持ってるんですか?」

「えぇ。簡単な大学ノートですのよ。毎日眺めて、何年もかかってようやく開け方を習得したんですわ」

えっへん、とばかりに胸を張っているが。

年単位もかかってる癖に、威張るな。

成程。毎日眺めても何年もかけなきゃ覚えられないなら。

とてもじゃないけど、当主の誕生日に開け方を見せてもらうだけで、覚えきれるはずがない。

ざっこ。

もういっそ、そのからくり箱に入れるのやめたら?

「そんなに大事にしてるんですね…。『ローズ・ブルーダイヤ』、是非とも見てみたかったです」

「えぇ…。ルナニアさんに見せてあげられないのが残念ですわ。いつか、こっそり見せて差し上げますわね」

「そうですか?ありがとうございます。…ところで」

と言って、俺は最高に優しい笑みを浮かべ、指先をそっとマリーフィアの顎に添わせた。

「る、ルナニアさんっ…?」

「今夜…あなたのお部屋に伺ってもよろしいですか?」

「…!」

この意味が分かるな?

いかに、この間まで処女だった小娘でも。

「も…勿論ですわ。お待ちしていますわ…」

マリーフィアは、顔を真っ赤にしてそう答えた。

…よろしい。

それじゃ、早速今夜…作戦決行と行こう。
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