The previous night of the world revolution~F.D.~
「お前…よくアイスなんか作れたな…」

「大丈夫ですよ。『猿でも分かる!アイスクリームの作り方』っていう本を見ながら作ったので」

猿はアイス作らねーよ。

本一冊で気軽に作るようなものじゃない。

「喜んで食べてくれましたよ」

「そうか…。それはまぁ…良かったな…」

「『えぇー!?おうちで作ったの!?』ってびっくりしてました」

そりゃびっくりするだろうよ。 

買ってくれば良いじゃん。コンビニで。

何なら、おでん煮込んでる間に俺が買ってきてやろうか?人数分。

外寒いけど、でも生クリームからバニラアイスを作る手間を思えば…。

…しかし。

「さーて。卵黄と卵白を分けてーっと」

ルーチェスはボウルを出して、器用に卵黄と卵白を分けていた。

熟練の手付きである。

俺だったら、3つに1個くらいは失敗して、卵黄を潰してしまうんだけど。

鮮やかな手付きで分けていらっしゃる。

すげー…。あれが元皇太子だなんて信じられるか?

実は元料理人です、って言われても俺は疑わないぞ。

「…何か手伝うこと、あるか?」

俺はとてもじゃないけど、レシピもなしにアイスクリームなんて作れない。

でも、ルーチェスを手伝うことくらいは出来るよ。

「ありがとうございます。じゃ、バニラビーンズの種を鞘から出してもらえます?」

「お、おぉ…」

バニラエッセンスじゃなくて、本物のバニラビーンズで作るのか。

めっちゃ本格的…。

コンビニで買ってきたアイスクリームとは、全く別物だな。

ぐつぐつとおでんを煮込む横で、いくつもの面倒な行程を経て、手の込んだアイスクリームを作るルーチェスを見ていると。

気軽に「コンビニで買えば良いじゃん」とか思っていた自分が、段々恥ずかしくなってきた。

100円じゃ買えない努力と手間が、そこにはある。
< 290 / 522 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop