The previous night of the world revolution~F.D.~
他の隊長達と共に、俺はサイネリア家の別荘に向かった。

サイネリア家の邸宅は、帝都に存在する。

しかし、殺されたアジーナ・ミシュル・サイネリアがいるのは、帝都から遠く離れた都市にある別荘だという話だった。

その理由は…彼女の経歴を見れば、自ずと理解出来る。

現場に辿り着くと、そこには現地に駐在していた帝国騎士達が、神妙な顔つきで待っていた。

「団長殿…」

「待たせたな。…現場は?」

「えぇと…そ、その格好は…?」

え、格好?

「…今、それ関係あるか?」

「あっ…ありません!失礼しました…」

「…お前がそんな格好してるからだろ。この馬鹿。不謹慎にもほどがある」

と、俺の横でアドルファスが呟いていた。

…え?

「そんなことは良い。被害者は?」

「今、検死を行っているところです」

「そうか。現場に案内してくれるか」

「はい…こちらです」

案内されたのは、女当主であるアジーナ・ミシュル・サイネリアの寝室だった。

部屋の扉を開けるなり、むわっとした血の匂いが鼻をついた。

その部屋は、一面真っ赤に染まっていた。

窓には赤いカーテンがかかっているのかと思ったが、被害者の血液で真っ赤に染まっているだけだった。

白かったはずのカーペットも、飛び散った血液で赤いまだら模様を作っている。

「…これは…」

「…酷いな…」

ルーシッドは思わずハンカチで口元を押さえ、アドルファスは露骨に眉をひそめていた。

…さすがに、これは思っていた以上だった。

この血…。一人の身体から流れ出たものとは思えないほどだ。

恐らく、一気に全身を切り裂かれるようにして殺されたのだろう。

そのせいで、全身から噴水のように血が吹き出し、部屋中を真っ赤に染めた…と、考えるのが妥当だろう。

おまけに、所々に千切れた肉の切れ端のようなものまで落ちている。

その肉の正体は…まぁ、考えない方が良いだろうな。

言わずもがな、と言ったところか。
 
絵に描いたような、凄惨な殺害現場だ。

今この場に死体が残っていないのは、幸いだったかもしれないな。

恐らく、原型を留めてはいないだろうから。

「…これが、発見された時の写真です」

俺達をここに案内した帝国騎士が、現場を撮影した写真をそっと差し出してきた。

…ふむ。成程。これは酷いな。

「うげ…。トラウマになるぞ、これ…」

「…酷いですね…」

アドルファスもルーシッドも、気分の悪そうな表情である。

これはナマで見なくて良かったかもな。

「…どうやら、余程強い殺意を持って殺されたらしいな」

「…そうだな」

ルシェは俺の横からその写真を見て、冷静に呟いた。

アジーナ・ミシュル・サイネリア。

上級貴族サイネリア家の女当主が、何故このような残酷な殺され方をしたのか…。
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