The previous night of the world revolution~F.D.~
そして、同時に酷く腹が立った。

何で、ルレイアが容疑者として疑われているか理解したからだ。

「…ルレイアに動機があるからか。ルレイアなら、あの女を憎んでるに違いないから…だから、ルレイアが殺したって決めつけてるのか」

ふざけるな。本当に…ふざけるなよ。

そんな理由で…。

「ルレイアが、どんな気持ちで…自分の心に…記憶に…蓋をして生きてると思ってるんだ…!」

普段、ルレイアは自分の辛い気持ちや過去の苦しみを、口にすることはまずない。

でも、忘れてしまった訳じゃない。過去を克服した訳でもない。

辛い気持ちを、自らの闇で真っ黒に塗り潰して、見て見ぬ振りをしているだけなのだ。

アジーナ・ミシュル・サイネリアという、帝国騎士官学校の前理事長に対してもそう。

殺してやりたいほどの強い憎しみを感じながら、その気持ちを敢えて抑え込み、蓋をしていた。

それなのに、こいつらの…無神経な言葉によって、今、過去の亡霊を呼び起こされているに違いない。

思わず憤り、逆上しそうになったところを。

ルシェが、小さな声でポツリと呟いた。

「…私も、そう思う」

…え。

「本当にルレイアが殺したなんて、私は信じてない…。ルレイアがそんなことをするはずがない」

「…!ルシェ殿。今は私情は抜きにしてもらおう」

アストラエアが、ルシェを睨んで咎めた。

しかし、ルシェは苦しそうな表情だった。

…彼女が、本気でルレイアを信じているのは明らかだった。

ルレイアは犯人じゃない。そう確信している。

俺だってそうだ。昨日はずっと一緒にいたんだから。アリバイなんていくらでも語れる。

…それでも、ルレイアが犯人として疑われてるんだな?

「…何か証拠でもあるのか?ルレイアが犯人だっていう…」

「あぁ…ある。まずは…これを見てくれ」

と言って、ルシェはビニール袋に入った、小さな黒いガラスの破片をテーブルの上に置いた。

…何だこれ?

ルレイアはひと目見た瞬間に、それが何か分かったらしいが。

俺には、さっぱり分からなかった。

「何だよ…。ただのガラスの破片じゃないか」

これが何の証拠になるって言うんだ?

「これは、ルレイアが起ち上げた香水ブランドの商品だそうだ」

「は…?」

ルレイアブランドの香水…。例の…『Black Dark Perfume』とかいう?

「それが見つかったから…?それだけの理由なのか?殺害現場にルレイアが作ってる香水の瓶が落ちてたら、ルレイアが犯人になるのか?」

そんな馬鹿な話があるかよ。

その程度で疑われるなら、この国で起きてる殺人事件の大半が、ルレイアのせいってことになるじゃないか。

「勿論、それだけではない。もう一つ…決定的な証拠がある」

「それは何だよ…?」

「…それは…」

言い淀むルシェに代わって、アストラエアが淡々と告げた。

「殺害される直前に…アジーナ女史が、執事に電話して言ったのだ。『ルシファー・ルド・ウィスタリアに殺される』とな」

「…!」

…その、名前は。

それこそ、ルレイアが疑われている一番の理由だった。
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