The previous night of the world revolution~F.D.~
ルーチェスの作ってくれたサムゲタンは、それは美味しかった。

身体の芯からほっこりする味である。

「はぁ、美味しかった…。さすが俺の愛弟子ですね」

「ありがとうございます。お褒めに預かり光栄です」

「本当にな…。元皇太子とは思えない料理の腕前だよ…」

これでもルーチェス、皇太子時代は、卵の殻さえ割ったことがなかったそうですよ。

それが今ではこんなに料理上手なんだから、ルーチェスのポテンシャルの高さを伺い知れますよね。

俺もルーチェスの師匠として、非常に鼻が高いですよ。

「温まりましたねー。このまま、全てを忘れてお昼寝でも…」

こたつでお昼寝。人生最高の贅沢を貪ろうとしたところを。

「おい、ちょっと待て。いくらなんでも気を緩め過ぎだろ」

ガシッ、とルルシーに肩を掴まれた。

ちっ。やっぱり駄目ですか。

ちょっと現実逃避したかったんですけどね。

「そうだぞルレ公。アリューシャは忘れてないからな」

「ほら見ろ。アリューシャでさえ、珍しく本題を忘れてなかっ、」

「人生ゲームの続きをしないとな!アリューシャのプータロー人生を謳歌、」 

「そっちじゃねぇよ、馬鹿アリューシャ」

ベシッ、とルルシーがアリューシャの後頭部をぶった。

あーあ…。

「いてぇ!何すんだルル公!」

「お前が馬鹿なことを言うからだよ。人生ゲームより大切なことがあるだろ!」

「何をぅ!?さてはルル公、アリューシャのプータロー人生が羨ましいから、わざと別の話しようとしてんな!?」

「プータローが羨ましい訳ないだろ!」

まぁまぁ。そんな喧嘩せずに。

「落ち着いて、ルルシー。冷静にならなきゃ」

「うぐっ…。そ、そうだな…」

アイズにたしなめられ、何とか矛を収めるルルシー。

「君達が帝国騎士団で聴取を受けてる間に、私も色々と調べてみたよ」
 
「そうですか」

「…恐らく、サイネリア家の当主が殺された事件、だよね?」

…やっぱり、アイズにも調べがついていたか。

一般にはまだ報道されていないから、アイズの持つ秘密の情報網を駆使して、あれこれ調べてくれたんだろう。

国内で起きた殺人事件、及び殺人未遂事件を全て調べ。

その中から、最も俺に…因縁の有りそうな人物をピックアップしたのだろう。

「そう…。やっぱりそうだったんだね」

「ふむ、サイネリア家か…」

「それはまた…厄介なことになりましまね」

アイズ、ルリシヤ、ルーチェスの三人は、サイネリア家の当主と聞いて、ある程度の事情を把握したようだが。

一方、シュノさんとアリューシャは。

「サイネリア家…?そんな家があるの?」

「…ルレ公の知り合い?」

首を傾げているご様子。

まぁ、あんな家のことなんて知らなくて良いですよ。

俺だって、一生関わり合いになりたくなかった。

「サイネリア家というのは、ルティス帝国上級貴族の家柄です」

と、ルーチェスが解説した。

「…!貴族…」

「ついでに言うと…。…えっと、言っちゃって良いですか?」

俺に気を遣ってくれたルーチェスが、そう聞いてきた。

「大丈夫ですよ。どうぞ」

これ以上、皆さんに気を遣わせる訳にはいきませんからね。

それに、皆さんにも事情を知って欲しい。
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