The previous night of the world revolution~F.D.~
俺達の前に、「その女」が現れたのは。

帝都から出る為に、バスターミナルに移動した時だった。

バスを待つ為にベンチに座っていたところ。

甲高い女の声が聞こえてきた。

「…!いた…!ルレイア卿!ルルシー卿!」

「…」

「えっ…?」

俺は僅かに視線を動かしただけだったが、ルルシーは素直なので、露骨にびくっとして跳ね起きた。

聞き覚えのある声だった。

その女…帝国自警団団長ブロテ・ルリシアスは、息を切らして俺達の目の前に現れた。

「良かった…!まだ帝都を出ていなくて。ルレイア卿、ルルシー卿も、私、ずっと探して…」

「お前…!どうして、ここに…」

衝撃の出会いに、ブロテもルルシーも愕然として見つめ合っていたが。

…そういうのは駄目ですよ。

いや、決してルルシーが他の女と見つめ合っているのが嫌とか、そういう意味じゃなくてですね。

…それも勿論ありますけど。

「静かに」

俺はスッと立ち上がり、ブロテの耳元に呟いた。

袖の内側から忍ばせたカミソリの刃を、ブロテの首筋に冷たく添わせて。

「うっ…」

「騒がれると困るんです…。…分かりますよね?」

さっき二人が、劇的な再会を披露したものだから。

周辺を通りかかった者や、俺達と同じバス待ち客が、何事かとこちらをちらちら見ている。

目立っちゃ駄目なんですよ。

「ご、ごめん…。つい…君達を見つけたのが嬉しくて…」

「…で、帝国自警団の団長様が、一体何の用です」
 
「君達を探してたの…。先に『青薔薇連合会』に向かったんだけど、既に出て行った後だって言うから…」

…何?

「帝都から出ていくなら、バスか、車のどちらかだと思って…。自警団の仲間達と手分けして、バスターミナルや、高速道路の料金所を回って、君達を追いかけてたんだよ」

で、ブロテは無事に、こうして逃亡者二人を見つけたって訳ですか。

それはおめでたいですね。

「…何の為に?憐れな逃亡者を笑う為ですか」

「…サイネリア家の当主殺害事件のことは、私達帝国自警団も聞いたよ」

「そうですか」

遅かったですね。

「その上で…二人共、その様子だとまだ知らないみたいだから言うけど、つい数時間前に…正式に、ルレイア卿が犯人の容疑者として、逮捕状が出されたよ」

「…」

「…っ、何だと…?」

ルルシーは驚いていたけれど、俺は驚かなかった。

どっちみち、時間の問題だと思ってましたし。

来るべきものが来たか、としか思わない。

…まぁ、そんなもんでしょうね。
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