The previous night of the world revolution~F.D.~
…そう。

そこまで覚悟を決めているなら、私に言えることはもうない。

ならば。

私も同じように、覚悟を決めよう。

「…分かった。引き受けるよ」

「…!本当に…?良いのか?」

自分で持ちかけてきたことながら、断られるかもしれないと不安だったのだろう。

私が引き受けると言うと、ルシェ卿は驚きに目を見開いていた。

「ルレイア卿が、サイネリア家当主の殺人容疑をかけられてるって言ったね?」

動機もあるし、証拠もあると。

でも、ルシェ卿はそれを信じていないと。

「あぁ…言った」

「そう。私も君と同じだよ。そんなこと信じられない」

ルレイア卿が人殺しをするはずがない、という意味ではない。

裏社会のマフィアの幹部として、あの人は覚悟を決めれば、躊躇なく人を殺すだろう。

これまでもずっと、そうしてきたはずだ。

だから、人殺しをしたことが信じられないんじゃない。

人を殺したことで、容疑者として疑われることが信じられないのだ。

仮にあの人が誰かを殺すと決めなら、絶対に、誰にも気づかれずに闇に葬るはずだ。

現場に、そんな分かりやすい証拠を残すはずがない。

あの人はマフィアなんだから、その辺りの隠蔽工作は、帝国騎士団より遥かに優れているに違いない。

それなのに、ルレイア卿が人殺しの証拠を残し、そのせいで疑われている。

きっと、誰かにハメられたのだ。

ルレイア卿を犯人に仕立て上げたい何者かに、偽物の証拠をでっち上げられたんだ。

それ以外有り得ない。

「あの人に限って、ミスをするとは思えない。きっと真犯人がいるんだ」

「…!ブロテ団長…。貴殿もそう思ってくれるか」

「うん、分かるよ。…むしろ、帝国騎士団にはそれが分からないの?」

「…」

辛辣なことを聞いてしまっただろうか。

帝国騎士団副団長としては、返答に困るだろうね。

でも、私も敢えて言わせてもらう。

「ルレイア卿が犯人な訳ないよ。ルシェ卿以外の帝国騎士団隊長達には、それが分からないの?」

「…いいや。分かってる…。オルタンス殿も、アドルファス殿も…。ルレイアをよく知る隊長達は、ルレイアが犯人だとは思ってない」

…そっか。

やっぱり、帝国騎士団の目も、そこまで節穴じゃなかったんだね。

「それじゃあ、どうして…?ルレイア卿が犯人じゃないって確信してるなら、どうして彼を容疑者に…」

「…それじゃ駄目なんだ。『犯人のはずがない』といくら私や、オルタンス殿がそう思っていても…。現場からは、ルレイアが犯人であることを証明する証拠が、いくつも上がっている」

「…」

「現状、他に手掛かりが何もない以上…ルレイアが無実だというのは、私の感情論でしかない。犯人として証拠が上がっている限り、ルレイアを疑わざるを得ないんだ」

…そういう規則なんだ、ってことね。

馬鹿みたい…。ルレイア卿が犯人じゃないと分かってるのに、証拠があるから容疑者だ、なんて…。

これじゃあ、また無実を訴える人々の声が掻き消されてしまう。

それは、私の信じる正義とは真反対のものだ。
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