The previous night of the world revolution~F.D.~
そこで、超真面目で礼儀正しい俺は。

テーブルの上に、例のジュエリーボックスを放り出した。

これが目に入らぬか、とばかりに。

「…それは…?」

「ご存知ですか。…『ローズ・ブルーダイヤ』」

「…!」

その驚いた表情。

どうやら、あながち無知な小娘という訳ではないようですね。

説明する手間が省けて有り難いですよ。

「き…聞いたことはあります。でも、本当に実在するとは…」

「そうですか」

「こ…これが、そうなんですか…?」

さぁ。俺も中身を見た訳じゃないですから、何とも言えませんが。

「そうだと言われています。とある筋から渡ってきました」

『オプスキュリテ』の名前は出さなかった。

だって、もうジュリスさんには関係ない話だから。

「何故そのようなものが…ここに…?」

「…それはこっちの台詞ですよ」

「…っ…」

軽く殺気を漂わせてやると、セルテリシアの顔が一瞬にして引き攣った。

隣りにいるエペルとミミニアも、緊張の面持ちだった。

ビビってくれてるようで結構。

「よくもふざけたことをしてくれましたね。俺達を盗っ人に仕立て上げようとは。…アシュトーリアさん暗殺に失敗したら、次はこれですか?」

「ま…待ってください」

「待ちませんよ。同じ組織と言えども、これは俺達を陥れ、冒涜する行為です。…ただで済むとは思ってませんよね?」

これ見よがしに鎌の柄を強く握ると、セルテリシアは怯えた表情で、

「待ってください…!」

青ざめながらも、再度そう繰り返した。

これが素人の小娘だったら、怯えて声も出ないところだったでしょうから。

必死に抗弁しようとする辺り、セルテリシアもそこそこ根性があると言って良い。

まぁ、俺を相手にビビり散らしてる様は間抜けですけど。

「何か誤解しているようです。私は…私は何も指示していません。あなた方を陥れるようなことは…」

「どうやって信用しろと?」

「本当のことです…!…何より、あなた方を陥れる為に『ローズ・ブルーダイヤ』を盗んだことが発覚したら、『ブルーローズ・ユニオン』だって無事では済みません」

「…」

「あなた方のみならず、自分達の首まで絞めるような愚かな真似は、絶対にしません…!誰に誓っても良いです」

…ふーん。

青ざめて泣きそうな顔だが、俺を前にそこまで言えるとは。

腐っても、『ブルーローズ・ユニオン』のリーダーということですね。

更に。

「セルテリシア様は、『ローズ・ブルーダイヤ』に手を出すようなことはなさらない。そのような指示は出していない…!我々が保証する」

「その通りです。大体、ダイヤが本当に実在していたことさえ、今知ったばかりなのに…」

セルテリシアの側近二人も、自分達の主君を庇うようにそう言った。

…あっそ。

どうやら…鎌掛けには引っ掛からなかったみたいですね。

「大丈夫ですよ。あなたが無実だってことは知ってますから」

「…えっ?」

俺は、あっさりと殺気を消した。

そんなことだろうと思ってたから、驚くに値しませんね。
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