The previous night of the world revolution~F.D.~
「良かった。ルレイアは逃げ延びたんだな…」

ルレイアに逃げられて、怒り心頭の隊長達とは正反対に。

オルタンスは、露骨にホッとしていた。

その隣に座っているルシェも、口には出さないが、安堵していることは明白だった。

…え、俺?

俺は…そうだな。

まぁ、あいつは簡単には捕まらないだろうと思ってたから。

こうなることは、ある程度予測していた。

しかし、露骨に安堵しているオルタンスを、アストラエアは親の仇のように睨んだ。

「貴様…。殺人事件の犯人を取り逃がしたことを喜んでいるのか?」

「あぁ。心の底から安心している」

アホか、お前は。

そこは嘘でも否定しろよ。

「俺は、ルレイアが犯人だとは思ってないからな」

「…」

…まぁ、それは俺もそうだな。

状況的に、ルレイアが犯人と考えるのが最も妥当…だというだけで。

俺の個人的な意見としては、アジーナ・ミシュル・サイネリアを殺したのはルレイアではない。と、思っている。

この場にいるオルタンスも、ルシェも、多分ルーシッドやリーヴァも、俺と同じ意見だろう。

だが、ルレイアを毛嫌いしている隊長達は、その限りではない。

どころか。

「…まさか貴様、奴が容疑者に認定されたことを、事前に『青薔薇連合会』に知らせて、わざと奴を逃したのではないだろうな?」

ジロッ、とアストラエアはオルタンスを睨んだ。

「俺が、何故そんなことをする?」

「奴を安全に逃がす為だろう」

「さぁ。知ったことじゃないな」

オルタンスはしらばっくれていたが。

…俺は見逃さなかった。

オルタンスの隣に座っているルシェが、僅かに瞳を揺らがせたことを。

…俺が気づいたんだから、多分オルタンスも気づいただろう。

気づいていながら、俺もオルタンスも、敢えて何も言わなかった。

…そうか、ルシェ。

お前は今度こそ、帝国騎士団副団長としての立場ではなく。

弟を思う一人の姉として、あいつを守ることを選んだんだな。

良い判断とも、悪い判断とも言えなかった。

果たして、それがどう転ぶか…。

…すると、そこに。

「会議中、失礼致します!」

部下の帝国騎士の一人が、混沌極まる会議室に入ってきた。

「どうした?」

「報告があります。つい先程、帝国自警団のブロテ団長から使者が…」

「…帝国自警団?」

何故、そこで奴らの名前が出てくる?

「その使者が何と?」

「はい。『サイネリア家当主殺害容疑のかかったルレイア・ティシェリーの身柄を、自警団権限で保護することを決めた』…とのことです」

「…へぇ」

…成程、そう来たか。
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