The previous night of the world revolution~F.D.~
着替えて準備を済ませ、ルルシーと共に向かった先は。

「何だ、ここ…。…ホテル?」

「はい、そうです」

シェルドニア王国王都にある、とある高級ホテルである。

「…?…泊まるのか?」

ルルシー、困惑。

「違いますよ」

「じゃあ、何だ?今日、このホテルで何かあるのか?」

「はい。…これです」

俺は、大切に温めてきたチラシを、ここぞとばかりにルルシーに見せた。

今こそ、これをルルシーに見せる時。

アパートを出る前に見せたら、シャイなルルシーは「行かない」と言い出すかもしれませんからね。

そうはさせませんよ。

「…何だこれ」

ルルシーは、真顔でそのチラシを受け取った。

チラシの内容は、今日、このホテルで行われるイベントのお知らせである。

でかでかと書かれた「無料体験ブライダルフェア」の文字を、ルルシーはじっと見つめていた。

どうです。

「このホテル、式場が併設されてて、今日ここで無料の見学、体験会が行われるんです」

「…」

「是非とも参加してみたくて応募したら、見事当選したんです!凄いでしょう?ね?ね?楽しそうでしょう?」

「…」

ルルシーったら、どうやら感動して言葉も出ないようですね。

分かりますよ、その気持ちは。

俺もこのチラシを見つけた時は、それはそれは胸が高鳴りましたから。

ブライダルフェアですよ?

これはもう参加するしかないですよね。

乗るしかない、このビッグウェーブに。

「さて、それじゃ入りましょうかー。楽しみですねルルシー、ブライダルふぇ、」

「ふざけんな。俺は帰る」

「えぇぇっ!?」

ルルシーはチラシをペッ、と投げて、くるりと踵を返した。

ちょっと。何処に行こうとしてるんですかルルシー。

そりゃないですよ。ここまで来ておいて。

「待ってくださいよ!何で帰っちゃうんですかっ!?」

「帰るに決まってるだろ!冗談じゃない。こんな下らないイベントに参加する為に、お前についてきたんじゃない!」

「酷い!」

下らないイベント?

俺にとっては神イベントなのに?

「ねぇぇ!お願いしますよぅ。折角ここまで来たじゃないですか。ルティス帝国じゃ忌々しい法律の壁に阻まれて、合法的に結婚式出来ないんですよ!」

だから、この同性婚が許されたシェルドニア王国で。

せめて、体験イベントとして結婚式をしたい。

ルルシーには、そう思う俺の切ない恋心が分からないんですか。

「何が忌々しい法律の壁、だ。俺にとっては自分の貞操を守る最後の砦だよ」

そんな真顔で言わないでください。

「馬鹿ばっか言ってないで、帰るぞ!」

「嫌です!結婚式してくれるまで帰りませんから。結婚式したい結婚式したい結婚式したい〜っ!」

「『玩具買って』のノリで結婚式をせがむな!」

ちっ。駄目か。

こうなったら、かくなる上はもう、実力行使しかない。

俺は、ガシッとルルシーの腕を掴んだ。

ふっふっふ。もう離しませんよ。

「さぁてルルシー、結婚式しましょうね〜」

「ちょ、話せ馬鹿っ…。こらっ、ルレイア!」

「はいはい行きますよー」

俺は、強引にルルシーを引き摺るようにして、ホテルの結婚式会場に連れ込んだのだった。
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