The previous night of the world revolution~F.D.~
…さて、気を取り直して。

「お二人共、しばらくこの箱庭帝国に滞在するということで良いんですよね?」

「あぁ。…申し訳無いんだけど、そのつもりだ」

と、ルルシー殿が答えた。

申し訳無いだなんて。

「良いんです。お二人ならいつでも歓迎します」

何なら、いつまででも居てくれて構わない。

ルレイア殿も、その相棒であるルルシー殿だって、この国の英雄なのだから。

「帝都のホテルの一室を確保してあります。そこに滞在されますか?それとも、お二人が住める家を用意しましょうか」

「いや、本当…。気を遣ってくれなくて良いんだ。ルレイアと二人、密かに暮らせる場所があれば、それで充分だから」

ルルシー殿は、遠慮するようにそう言ったが。

「…それよりも、ルアリス。あなた」

ルレイア殿が、間に割って入ってきた。

珍しく、真剣な眼差しだった。

何より、ルレイア殿がまともに俺の名前を呼んだ。

それだけで、襟を正す思いだった。

いつもだったら、さっきみたいに童貞呼ばわりしたり、わざと違う名前で呼ぶのに。

つまり、それだけ真剣な話だということだ。

「…はい。何でしょう」

「ルシード…。シェルドニア女王の側近が言うには、俺とルルシーの箱庭帝国亡命を、二つ返事で了承したそうですが」

「はい」

「あなた、俺がルティス帝国で何をやったか、知ってるんですか?」

ルレイア殿が、何で国外に亡命するようなことになってしまったのか、その理由について知っているのか。

ルレイア殿は、俺にそう聞いているのだ。

前述の通り、俺はこの時点で、まだ亡命の理由を知らなかった。

だから、素直にそう答えた。

「いいえ、まだ聞いていません」

「…あなた、亡命の理由も知らずに、俺達を箱庭帝国に入れたんですか?」

「はい」

ルレイア殿の、この呆れたような表情。

…馬鹿じゃないのかこいつ、って思ってそう。

「…馬鹿じゃないんですか、あなた…」

ほら、やっぱり。

俺も、ルレイア殿が何を考えてるのか分かるようになってきたな。

「あなたは童貞坊やだから、知らないかもしれませんが」

童貞坊や、関係あります?

「普通、亡命希望者を受け入れる際は、その理由を詳しく聞いて、亡命を受け入れるかどうか審議してから許可を出すんですよ」

「…そうでしょうね」

普通はそうでしょう。

俺だって、国外からの亡命者を、無条件に受け入れるつもりはない。

助けを求めてきた人は、出来れば全員受け入れてあげたいけれど。

俺が何より優先して守るべきは、祖国箱庭帝国の民だ。

だから、誰でも彼でも、無条件に亡命を許可する訳ではない。

…でも、相手がルレイア殿となれば、話は別である。

俺がこんなことを言うのは、おこがましいかもしれないが。

ルレイア殿も、ルルシー殿も、亡命希望者である前に、俺の友人だから。

友人が助けを求めてきたら、それに応えるのは当然のことだろう?
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