The previous night of the world revolution~F.D.~
もうこの話題はやめよう。

この深刻な問題は、申し訳ないけどルアリスの地道な努力に任せるとする。

「次だ、次。次の話題に移ろう」

俺は、机の上の意見書を手に取った。

えぇと、こちらは…。

どれどれ…。『山間部に住んでるので、道路を補修して欲しいです。』

それからこっちは…『バスの本数を増やして。不便。』

こちらは…『お米の値段が高い。もっと安くして欲しい。』

それから…『家が古いので新築に建て替えてください。』

…等々。国民達から寄せられた不満、要望の声である。

「人間の欲望をごった煮にしたみたいな紙切れですね、これ」

横から俺と一緒に意見書を見ていたルレイアの一言である。

…言うなって。そういうことを。

ルアリスは、毎日こんなものを読んでるんだろ?

大変だよ。

道路とか物価のことをルアリスに頼むのは、まだ分かるけども。

家を新築に建て替えろって、それ国がやることじゃないだろ。

明らかに度を越したおねだり。

「ルアリス…お前…頑張ってるんだな…」

しみじみ。

「い、いえ…。このくらいは…可愛いものですよ。以前は、『新しいコートを買ってください。』とか、『車ください。』とか…そんな要望もありました」

マジかよ。

ルアリスはママか?子供のクリスマスプレゼント感覚なのか?

もらえる訳ねーじゃん。

「そういう無茶な要望って…やっぱりスルーしてるんだよな?」

「はい…。目安箱にも、不満や要望はあくまでも『常識の範囲内で』と注意書きをしてるんですが…」

「無駄ですよ、そんなの。常識なんて人の数だけあるんですから」

ルレイア、一刀両断。

「その通りです、ルレイア殿…。仕方ないのでそういう要望は無視していたら、『青薔薇委員会』の代表はケチだ、って罵られたりして…」

ルアリスは、珍しく切ない愚痴を零した。

本当に…苦労してるんだな。

無茶苦茶な要望に応えなかったってだけで、ケチ呼ばわりとは…。

全然ケチじゃないっての。

国民達も国民達だよ。

「家を建て替えろだの、車を寄越せだの…厚かましいお願いだってことが分からないのか?」

見返りと対価がなければ人は何もしてくれないってこと、アリューシャでさえ知ってるぞ。

それなのに、無茶苦茶なおねだりを我が物顔で…。面の皮が厚いにも程があるぞ。

しかし、ルレイアは。

「この国は、長い間憲兵局に支配されてきましたからね。良くも悪くも国民達は、政府に依存してるんですよ」

と、説明してくれた。

えっ…。

「これまでずっと、『国が』自分達を支配してきた。その後、『国が』自分達を解放した。だからこれからも『国が』自分達の生活を守るのが当然、と無意識に思い込んでるんです」

その通りとばかりに、ルアリスが横で小さく頷いた。

…成程。良くも悪くも国に依存しているっているのは、そういう意味だったのか。

憲兵局に支配されて、自由に物を考えることも出来なくて。

ようやく解放されたけれど、支配されていた時の奴隷根性は変わらない。

自分で考えることをせず、常に国がしてくれることを期待する…。

家を建て替えろだの、車をくれだの。

俺にとっては無茶苦茶な要望に思えたが、箱庭帝国の国民達にとっては、至極真っ当なお願いなのかもしれない。
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