The previous night of the world revolution~F.D.~
文化の違いっていうのは、恐ろしいもんだな。

「勿論、無茶な要望をする国民ばかりではありませんよ。ちゃんと自分で考えて、欲しいものの為に自分で努力する国民も、たくさんいるんです」

ルアリスは、自国の民を庇うようにそう言った。

「ですが…憲兵局支配時代の、国に依存した思考が未だに消えず…。このように、無茶な頼み事をしてくる人もいて」

「そうか…」

その人達も結局は、憲兵局の支配の被害者なのかもしれないな。

自分で考えることを放棄して、他人の意志や決定に盲目的に従う…。

自分で考えるのって、大変だもんな。

他人に決めてもらう方が楽だよ。そりゃ。

「それに、家の建て替えはともかく…。道路の補修や、交通の便の確保、それに物価の高騰問題は、俺が果たすべき課題です」

と、ルアリス。

道路の補修…交通の便の確保…。

この辺の要望は、ルティス帝国でも田舎の地方でしばしば聞かれる。

どうしても、人がたくさん集まる都会の街ばっかり整備して。

ついつい、田舎は後回しになってしまう。

無理もないことなのかもしれないが、田舎に住んでる人々にとっては、不公平だと思うんだろうな。

お米の値段がどうの、っていう要望についてもそう。

主食が高かったら、主婦としては非常に困る。

長年食糧不足で苦しんでいた箱庭帝国だからこそ、これ以上食べ物のことで苦労して欲しくない。という気持ちも分かる。

真剣に、この課題に取り組もうとするルアリスだったが。

ルレイアは。

「馬鹿馬鹿しい。そんな我が儘、いちいち聞いてたら国費がいくらあっても足りませんよ」

…手厳しい。

「あのな、ルレイア…。そうは言うけど、箱庭帝国の国民達にとっては…」

「良いですか。生活水準というのは、上がっていく一方なんです。下がることはありません。一度上げたら下げられないんですよ。大昔の人間の生活を考えてみてください」

えっ?

「最初、水は川から汲むのが当たり前でしたよね。しかし、誰かが井戸を開発して、それが便利だから誰もが井戸を欲しがった。しかし今度は、直接家に水道を引く者が現れた。すると、今度は誰もが水道を欲しがって…」

「そ、それは…」

「今度は何ですかね。蛇口を捻ったらワインが出てくる水道を欲しがるかもしれませんよ」

ブルジョア階級かよ。

ワインはやめとこうぜ。せめてジュース。

「どんどん便利な方に、どんどん楽な方にと、人間の欲望は進化していくものなんです。同時に生活水準も上がっていく。バスの本数を増やしたら、今度はタクシーを寄越せ、と言い出しかねませんよ」

「うっ…」

タクシーは…さすがに無理じゃね?

バスで我慢してくれよ…と思ったけど、さっきのルレイアの説明を聞いてたら、なんか無理そうな気がしてきた。

「米の値段にしてもそうです。箱庭帝国では昔から、米は高級品だったはず。米以外の主食で腹を満たすのが当たり前だった」

そういえば。

今朝食べたお粥も、雑穀と芋が入った雑炊だったし。

「それなのに、ルアリスが箱庭帝国を解放してから、米の値段が下がって、庶民にも比較的簡単に手が届くようになった。そのせいで、これまで当たり前のように食べていた雑穀が、『貧しい味』になってしまったんです」

「誰だって…米の方が美味しいに決まってるもんな…」

食事の質も随分上がったんだな。

そりゃ、芋や雑穀の雑炊より、銀シャリの方が美味しいに決まってるよ。
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