The previous night of the world revolution~F.D.~
馬鹿みたいな話だが、目撃情報というのは、意外と曖昧なものだ。

誰だって、危険な事件に立ち会えば記憶も混乱するし、正常な判断も出来なくなる。

刺された本人は「犯人が右手に持った果物ナイフで刺されました」と証言しても。

実際に監視カメラを確認してみたら、犯人が刃物を持っていたのは左手で、しかも果物ナイフじゃなくて出刃包丁でした、なんて事件も経験したことがある。

恐怖のあまり、判断を誤ったり記憶違いを起こすらしい。

従って、アジーナ女史がルレイアの変装をした犯人を見て、ルレイアに殺されたと証言したのも、有り得ない話ではない。

…っていうか、俺はこの文書を読んで、妙に納得してしまったのだ。

あー、まぁそうだろうな。って。

俺もオルタンスもルシェも、ハナからルレイアが犯人だとは思ってなかったから、余計にな。

「まさか…。何処の誰から送られたとも知らない情報を鵜呑みにするのか?」

相変わらず、アストラエアは懐疑的。

「確かにこの文書は怪しさ満点だが…。でも、書いてあることに間違いはないと思うぞ」

「何を根拠に?」

「だって、これら全部、真犯人しか知り得ない情報だろ」

アジーナ女史の殺害事件、その詳細については、一切世間一般には公表していない。

ましてや、ルレイアの名前なんて一切出していないはずだ。

それなのにこの文書には、事件の渦中にいる者しか知り得ない情報が書いてある。

真犯人、もしくは真犯人のことを知っている人物であることは間違いないだろう。

「…何者なんだ?その真犯人というのは」

「さぁな…」
 
そこまでは分からない。

この文書には、自分達が真犯人であるとは記してあるが。

その名前も所属組織も、まったく書いていないからだ。

恐らく帝国自警団の誰かなのだろう、とは思っていたが…。

「ともかく、これでルレイアに対する嫌疑は晴れたも同然だ」

と、オルタンスが言った。

「この文書に書いてある人物を新たな容疑者として、捜査を始める」

「…ルレイアに関してはどうするんだ?」

「ほっとく」

…放っとくのかよ。
 
良いのか?それで…と思ったけど、あいつ、今何処にいるのか分からないし。

多分国外のどっかにいるんだろうけど。

「まぁ実際、あいつは犯人じゃないんだろうし…。放っといても良いけど」

「それより気になるのは、何故今このタイミングで、真犯人を名乗る者が現れたか、だ」

と、ルシェが言った。

…確かにな。

無事にルレイアを容疑者にして、帝国自警団の保護も解除されて、真犯人はほくそ笑んでいたはず。

それなのに何故、今、自らを危険に晒すような真似をする?

もうルレイアを犯人にすることは諦めたのか?
 
あそこまで入念な準備をし、資金と労力を注ぎ込み…そこまでして、ルレイアを容疑者に仕立て上げたのに?

一体何を企んでるのだろう。いまいち、真犯人の意図が…。

すると。

「それは決まってるだろう。真犯人も、それだけ追い詰められてるということだ」

あっけらかんとして、オルタンスがそう言った。
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