The previous night of the world revolution~F.D.~
ーーーーー…ルティス帝国帝都、某所にて。



「…」

僕は、仕事用の端末をじっと見つめていた。

そこには、僕の「上司」から送られてきた情報が記されていた。

…そう、そうなんだ。

僕の「顧客」が、随分と勝手なことをしてくれたらしい。

顧客からの依頼があったから、僕は密かに『ブラック・カフェ』に潜んで、該当人物の頭髪を入手した。

更には、使い慣れた指紋捏造キットを使って、該当人物の指紋も複製した。

それだけではない。

顧客の依頼に応じて、わざわざ黒いコートに黒い鎌、なんてコスプレみたいな衣装を着て、仕事に及んだ。

不可解な仕事だとは思ったが、僕達のような暗殺者は、依頼人の素性なんて詮索しない。

ただ命じられた通りに、命じられた相手を殺し、命じられた仕事をするだけだ。

この仕事を、「僕の所属する組織」は喜んでいた。

どうも、莫大な報酬金を弾んでもらったらしい。

ただの社員に過ぎない僕には、どうでも良いことである。

依頼者が、どういう目的で暗殺を依頼するのかも。

金目的だろうが、怨恨だろうが、何でも。

重要なのは、リスクと報酬が見合っているかどうか。

今回の仕事はそれが見合っていると判断されたから、僕が派遣された。

仕事は問題なく済んだけれど、その後が問題だった。

依頼人は、殺害の現場に頭髪と偽造した指紋を残すことで、僕の知らない第三者Xに犯人の罪を擦り付けようとしていた。

サイネリア家当主を殺害し、そのXに無実の罪を擦り付けること。ここまでが暗殺者である僕に課せられた任務だった。

Xが何者であるかなど、僕には知る由もなかったのだ。

だが、後に、Xが僕の所属する組織の上役…『青薔薇連合会』の幹部であることが発覚した。

僕は知らず知らずのうちに、上司の身内に冤罪を押し付けていたのだ。

それ自体は僕の罪ではない。僕はただ、組織の指示に従っただけだ。

例えどんなに理不尽な仕事だろうと、身内に冤罪を押し付けようと、報酬が正しく支払われるならば、僕の知ったことではない。

…しかし、ここに来て許し難いルール違反が起きた。

依頼者が、帝国騎士団に自分らが暗殺の真犯人であると名乗り出たのだ。

この行為は、契約のうちに入っていなかった。
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