The previous night of the world revolution~F.D.~
帝国騎士団に犯行を自白するなんて、そんな話は聞いてない。

これは明確な契約違反だ。

依頼者にどういう意図があるのか、何を考えているのか知らないが。

契約違反は契約違反であり、僕としては「話が違う」と訴えたかった。

端末を睨むように見つめながら、不満を募らせていたところに。

噂をすればという奴なのか、その依頼者から直接、僕のもとに電話がかかってきた。

…言い訳でもするつもりだろうか。

「…何?」

僕は不満げな態度を隠すことなく、電話に出た。

そもそも、こうして僕のもとに直接電話をしてくることさえ業腹だ。

連絡を取りたいなら、原則として僕じゃなくて、僕の組織の方に繋ぐよう、言っておいたはずだ。

仕事の都合上、不測の事態が起きた時の為にと、一応僕の連絡先も教えたけれど。

こんなことになるなら、教えなきゃ良かった。

すると。

『仕事を頼みたい』

契約違反を謝ることもせず、依頼者は単刀直入にそう切り出してきた。

「君達の仕事はもう終わってるよ。サイネリア家当主は殺した。現場に証拠も残した。ここまでが依頼された仕事だったはずだ」

それ以上の仕事は、契約のうちに入っていない。

アフターサービスは保証しないよ。僕は。

しかし、依頼者が言いたいのはそういうことではなかった。

『新しい仕事だ。またお前に仕事を依頼したい』

…新しい仕事?

「仕事の話なら、『上』を通してもらわないと困るよ」

僕はただの雇われ社員だから。

あくまで、上の指示に従って仕事をするだけ。

僕に直接頼まれても困る。

『そうじゃない。お前個人に仕事を頼みたいんだ』

…何?
 
「僕…個人に?何言ってるの?」

『上を通さずに仕事を依頼したい、ということだ』

「…」

そう。また契約違反をするんだ。

「そんな依頼には応じられないよ。仕事の依頼なら、上を通してもらわないと。大体、君達はルール違反だ。帝国騎士団に真犯人の情報を…」

『一生遊んで暮らせるだけの額を払う』

はぁ?

依頼者が口にした金額は、目玉が飛び出るほどの額だった。

ふーん。僕を金で動かそうって訳。

「君にそんな額、本当に払えるの?」

空手形は受け取らないよ。

『前金で払う。これは、俺達が持っている資産の全額だ』

何それ。

持っている財産を全て投げ売ってでも、僕に仕事を依頼しようとしてるの?

「そんなことしたら君達、破産するんじゃないの?」 

『そうだな。でも構わない。これで目的が果たせるのなら、金なんて惜しくない。その後どうなっても良い』

つまり、やけっぱちなんだ。

もう形振り構ってはいられない。資産の全額を費やしてでも、目的を達成する。

その潔さは、個人的には嫌いではない。
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