The previous night of the world revolution~F.D.~
その後、予定通りミュージカルデートを行った。

今日の演目は、かの有名な『ルティス帝国英雄伝』。

言わずと知れた、ルティス帝国の英雄様のお話である。

俺はこの話、偽善っぽくて好きじゃないんだが。

まさか、「俺この話嫌いなんですよねー」と言う訳にもいかず。

「素晴らしい作品でしたね。衣装も音響も、舞台装置も超一流で」

ストーリーではなく、演劇としての質を褒める方向で行こう。

…すると。マリーフィアは。

「えぇ…そう…。そうですわね…」

「…」

…非常に煮え切らない返事。

どうした。心ここにあらずという顔だが。

「マリーフィアさん?…面白くありませんでした?」

「い、いいえ…そんなことは…」

「じゃあ…もしかして、体調が悪いんですか?もしそうなら…」

「そ、そうじゃありませんの」

…何だ。思ってることがあるならはっきり言え。

それとも、俺の予想通り…。

「マリーフィアさん…?」

「だ、大丈夫ですわ…。お気になさらず。本当に、何でもありませんのよ」

強く否定すればするほど、「何でもあります」と主張しているようなもの。

ふむ。…やはり、そういう兆候が見られる。

「えぇ、あの…とても…面白かったですわ」

「そうですか?」

「も、勿論…。ほら、あの…主人公が革命軍を結成して、革命軍の仲間達に呼びかける時のシーンなんか、とても素敵じゃありませんでした?」

露骨に話を逸らしにかかってきたな。

『ルティス帝国英雄伝』の中でも、かなり有名なシーンだ。

有名って言うかド定番過ぎて、逆に面白味に欠けるけど。

「えぇ。あの有名なシーン…。とても素晴らしい演出でしたね」

あくまで演出を褒める。ストーリーは知らん。

「ルナニアさんは、どのシーンがお気に入りでした?」

「そうですね…」

正直、見ながら超眠かったから、目開けてる振りして半分寝てました。

…とは、さすがに言えないので。

「色んなシーンがありますけど、中でも俺が良かったなと思うのは…最終決戦のシーンですね。演出も音楽も盛り上がってて、見ていて清々しいと言いますか…」

アクションシーンですからね。動きも派手ですし。 

何より、敵をスパスパ斬り倒して進む主人公に親近感を感じる。

あれは爽快で楽しいですよ。経験談。

「成程、確かにあのシーンも面白いですわね」

「『ルティス帝国英雄伝』はミュージカルや演劇に限らず、色んな作品の媒体になってますからね。作品によって様々な解釈の違いや、異なった描かれ方をしていて面白いですよね」

「えぇ、仰る通りですわ」

俺としては、もっとキャラクターを独自に解釈したら面白いんじゃないかと思いますね。

例えば主人公。何かと勇ましく、正義感に溢れた人物…の、ように描かれがちだけど。

もっとヘタレで臆病で、人見知りな性格とか。

もっと自己中心的で、本当は恵まれない人々のことなんかどうでも良くて、地位と名声を手に入れたかっただけ、とか。

そういう違った解釈をしてみたらどうだろう。

さながら悪役ですね。

でも、個人的にはそちらの方が好みですよ。…とてもマリーフィアには言えないけど。
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