The previous night of the world revolution~F.D.~
ミュージカルが終わった後、俺達は予約していたホテルのレストランに向かった。

勿論、ここは『青薔薇連合会』の息がかかったホテルである。

一流ホテルの一流レストランで、最も良い席…夜景の見える個室…を用意させた。

ここは俺が女を落とす為に稀によく使う店なので、ウエイターもシェフも手慣れたもの。

俺が女連れで入店するなり、「あっ、いつものアレだな」みたいな顔をしていた。

いつものアレですよ。その通り。

こういう時はいつも、シェフが気を利かせ。

本日のデザートは、真っ黒なガトーオペラだったのを。

いかにも女の子が好みそうな、ハート型の可愛らしいデザート、パルミエと、ピンク色のさくらんぼのシャーベットに、メニュー変更された。

ふむ。良い気遣いですね。

少女趣味のマリーフィアにとっては、さぞかし好みのスイーツであったに違いないが…。

「どうですか、マリーフィアさん。美味しいですか?」

「…」

マリーフィアは、食べている最中も、こうして俺が話しかけても、上の空。

折角の高級料理が、全然美味しくないみたいじゃないか。

泣いてますよ。シェフが。

「マリーフィアさん。マリーフィアさん?」

「…」

「…わっ!」

「ひゃうっ!?」

試しにちょっと脅かしてみたら、予想以上にびっくりされた。

「済みません。何だかボーッとしてらっしゃるみたいなので…」

「う…うぅ…。べ、別にボーッとしてなんか…」

「もしかして、お口に合いませんでした?」

「そ、そんなことはないん…ですのよ…」

「…その割には、心ここにあらずといった感じですけど…」

…いい加減面倒臭くなってきたので、そろそろカミングアウトして欲しいんだが?

「…もしかして、俺と一緒にいるの、楽しくないですか?」

「えっ?」

俺は、わざと大袈裟に表情を曇らせた。

「…そうですよね。マリーフィアさんはカミーリア家の貴族…。対する俺は、たかだか音楽事務所に勤めてるというだけの一般人…」

「そ、そんな…」

「マリーフィアさんに近づくことが出来たと思いましたけど…。やっぱり、俺の勘違い…独りよがりだったんですね」

「…!」

「済みません…。俺、何か勘違いしていたみたいで…。…あなたが迷惑だったら、これきりで、もう会いません」

勿論、これは嘘である。

本当にもう二度と会わないとしたら、困るのは俺の方だ。

こう言っても、マリーフィアが頷くことはないと分かっているからこそ、鎌をかけるつもりで言ったのだ。

案の定マリーフィアは、焦ったような顔で、

「ち、違いますわ…!迷惑だなんて…そんなことはありませんわ。迷惑だなんて…」

「そう…なんですか?でも…それなら、どうしてさっきから…暗い顔をしてるんですか?」

「…それは…」

「俺に…何か言いたいことがあるんですか?」

「…!」

…図星のようですね。

じゃ、さっさと喋ってもらいましょうか。

「マリーフィアさん。何でも言ってください。俺は、あなたに心を開いて欲しいんです。俺が、あなたに心を開いているように…」

「…ルナニア…さん…」

俺の、この甘い言葉がトリガーだった。

「…聞いてもらえますか?あの…わたくしの…気持ち…」

「えぇ、勿論です…。あなたのどんな言葉でも、俺は受け止めますよ」

「あの…わたくし…。…あ、あなたと…結婚、したいんです」

「…」

…何でも受け止めます、とは言ったけど。

「それ」は、さすがの俺も予想外でしたよ。
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