The previous night of the world revolution~F.D.~
第4章
…まさか、またこの家に戻ってくるとは。

「…ちっ」

よく、安心出来る場所の例えとして。

実家のような安心感、という言葉を使うだろう?

俺にとっては、安心するどころか、実家を見た瞬間に舌打ちが出た。

俺にとっての実家は『青薔薇連合会』であり、最も安心する場所はルルシーの腕の中である。

帝都にある、ウィスタリア家の屋敷。

もう二度と戻ってくるつもりのなかったその家に、足を踏み入れた。

結婚式の前に、一度この家に戻り。

ウィスタリア家の嫡男として、改めてカミーリア家に婿入りにする形である。

マリーフィアにプロポーズされて、まだ10日足らずだというのに。

マリーフィアは、あっという間に俺をウィスタリア家の貴族に復帰させた。

権力乱用も良いところだろう。

…まぁ、元々俺が不等に貴族権を奪われたのは、紛うことなき事実だからな。

不等に奪われたものを、当然の権利として取り戻しただけだと思えば、不思議ではない。

…だからって、二度と戻りたくなかったですけど。

この家に足を踏み入れたら、嫌でも思い出してしまうじゃないか。

ここで生まれて、お前は将来帝国騎士になるんだと言い聞かされ。

選択の余地も、善悪の判断を考える暇もないまま、ただひたすら帝国騎士をなる為に訓練を積んできた日々のことを。

…俺にとっては、こっちの方が遥かに黒歴史ですよ。

どうせウィスタリア家の連中は、俺が戻ってきたことなんて気に留めないだろうし。

どうせマリーフィアと結婚したら、さっさとウィスタリア家を出ていくんだし。

ほんのちょっとの辛抱。ウィスタリア家の屋敷に数日間借りするだけだと思おう。

…しかし。

「…ルシファー…!お前…」

「げっ…」

ウィスタリア家の屋敷に足を踏み入れるなり、この家で最も会いたくなかった人間に遭遇。

…いや、二番目だな。こいつは二番目だ。

ルファディオ・ウィスタリア。

生物学上、俺の兄に当たる人物である。

…影薄過ぎて、存在感が消え去ってましたけど。

一応、まだ生きてたんですね。

そのまま、人知れず死んでてくれても世の中は全く困らなかったんですけどね。
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