The previous night of the world revolution~F.D.~
天才の姉と、天才の弟に挟まれた、哀れな凡人長男めが。

一応は帝国騎士団に入ったものの、一生鳴かず飛ばずで生涯を終えるであろう、情けない男である。

それならいっそ、俺のようにウィスタリア家を出て、帝国騎士とは全く違う人生を歩む方がマシなんじゃないか、と俺は思うが。

そんなことをする度胸もない。ただこの家に生まれて、将来は帝国騎士になれと言われて育てられたから、そうしてるだけ。

要するに、ただの意気地無しである。

その意気地無しの腰抜けが、憎々しげに俺を睨んでいた。

「貴様、どのツラ下げて…!」

「このツラですよ」

イケメンでしょう?あなたと違って。

同じ血が流れる兄弟だというのに、俺は最強で最凶でイケメンで、こいつは顔面も才能も全てが平均点。

神様なんている訳ない、って思うでしょう?

「何故ここに戻ってきた?何で、今更…!」

あぁ、うるさいうるさい。

「心配しなくても、今更ウィスタリア家の地位も財産も狙っちゃいませんよ」

ウィスタリア家の長男である、あなたの立場を揺らがせようなんてこれっぽっちも考えちゃいない。

今更、この家の権威なんてどうでも良い。未練なんて全くない。

「二度と戻ってくるつもりはなかったんですけどね。…諸事情あって、一時的に戻ってきただけです。またすぐ出ていきますよ」

「ウィスタリア家の恥晒しが、何を…!」 

「…」

恥晒し、だって。

今の聞きました?失笑モノですよ。

「無実の罪を押し付けられただけの俺を放逐することで、貴族としての面目を保った卑怯者が、何か言いました?」

「っ…」

「俺にとっては、貴族の体面やしがらみに囚われて、何世紀も前から一歩たりとも進歩していないあなた達の方が、余程恥晒しだと思いますけどね」

我が兄ルファディオは、射殺さんばかりに俺を睨んできたが。

この男が。この程度の男が、俺に何事か出来ようものか。

手を出そうとするなら返り討ちにしてやるし、そうじゃなくても、無視だ。無視。

こんな小物にかかずらっている暇はない。 

「以上。話は終わりです」

「…待て!お前が、この家に入る資格は…!」

「終わりだと言ったはずです」

俺を止めないなら、力ずくで止めてみるが良い。

それが出来るのなら、の話ですけど。

俺が昔ウィスタリア家に居た頃から、兄は一度として、稽古で俺に勝てたことはなかった。

ましてや、裏社会で、『青薔薇連合会』で、百戦錬磨の経験を積んだ俺を、凡人のルファディオごときが止められるはずがない。

兄もそれは分かっているのだろう。

悔しそうな顔で、憎々しげな表情で、何か言いたそうにしていたが。

俺はさっさと兄を振り切って、屋敷の中に入っていった。
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