The previous night of the world revolution~F.D.~
我ながらゲスだと思うが。

無意識に、ごくりと生唾を飲み込んでいた。

…何で俺が緊張してんの?意味分からねぇんだけど。

…しかし。

ルレイアとマリーフィアの顔が近づき、「その瞬間」が画面に映し出される…と思いきや。

その絶妙なタイミングで、カメラが明後日の方向を向いた。

「えっ…」

恐らく、アイズがカメラの付いたネクタイピンを、わざと別の方向に向けたのだろう。

タブレット端末は、二人の「その瞬間」を映すことなく、教会の天井を映し出していた。

美しいステンドグラスの天井が、視界いっぱいに広がる。

これには、一同ポカンとして拍子抜け。

「どう?ちゅー終わった?」

ルリシヤに両目を覆われて、タブレット端末を見ていないアリューシャだけが、気の抜けた声で質問した。

「えっ、ちょっ…。アイズ?何でカメラを動かしたの?」

シュノが困惑して言った。

「ちっ…。見損なった…!」

あからさまに残念そうなルーチェス。

お前は、一旦頭の中から煩悩を取り出して消毒してこい。

「何で…?カメラを落っことしたとか…?」

「いや、恐らくこれはアイズ先輩の気遣いだろう」

俺が尋ねると、ルリシヤがそう答えた。

「気遣い…?」

「あぁ。『その瞬間』を見せたら、ルルシー先輩が傷つくと思って、わざとカメラを明後日の方向に向けたんだろう」

あぁ、そう。成程。

余計な気遣いどうも。

あとは…多分、アリューシャにも見せたくなかったんだろうな。過保護だから。

すると、その証拠に。

「あ、戻りましたよ」

天井を映していたカメラが、元のポジションに戻った。

再び祭壇を映し出したカメラ。

その時には、もう「それ」は終わっていた。

祝福の拍手が、割れんばかりに教会の中に響いていた。

…やっぱりわざとだったんだな。

アイズの奴…。余計な気遣いを…。

…まぁ、でも。

「その瞬間」を…見たくなかったのは事実だから。

不本意だが、俺はアイズの気遣いに感謝しなきゃいけないんだろうな。

…ちっ。
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