The previous night of the world revolution~F.D.~
――――――…ルレイア殿が、箱庭帝国の地に降り立ったとも知らず。

俺はその頃、自分のやるべきことに追われていた。






「ふぅ…」

ようやく、今日やるべき仕事が一段落して。

『青薔薇委員会』の代表を務めるようになってから、こういう書類仕事にも慣れたつもりでいるけれど。

やっぱり、机に向かって作業する仕事は、まだまだ苦手だ。

苦手な仕事が一段落ついて、俺は安堵の溜め息をついた。

それから、デスクの上の時計に目をやった。

思っていたより早く終わったな。

どうしようか。

時間があるなら、帝都で新しく建設中の「あの施設」の視察に行ってみようか。

それとも…家に帰るべきか。

普段の俺だったら、このまま仕事を続行するところだが…。

今は…今だけは、仕事よりも家庭を顧みるべきだと思った。

家で待っている家族の顔を思い浮かべて、俺は自然と表情が綻んだ。

美しいセトナ様と、可愛い娘と、それから…。

…よし、やっぱり、今日はこのまま帰ろう。

そう思って立ち上がった、その時。

「ルアリス坊っちゃん!」

「うわっ…。な、何だ?」

血相を変えたユーレイリーが、俺の執務室に飛び込んできた。

「ゆ、ユーレイリー?どうした?そんな血相変えて…」

「ルアリス坊っちゃん…。お電話です」

ユーレイリーは真剣そのものの表情で、俺に電話の子機を差し出した。

…ま、まさか。こ、この流れは…。

その受話器の向こう側で待ち受けている人物を想像して、俺は思わず生唾を呑み込んだ。

ただ電話が掛かってきたというだけで、ユーレイリーがこれほど表情を固くするということは。

つまり、それなりの人物からの連絡なのだ。

思い当たる人物は、一人しかいない。

「…ユーレイリー…。まさか…」

「…はい。坊っちゃんの予想通りの方からです」

…やっぱり。

たかが電話一本で、相手を戦慄させる力を持つ人物を、俺は一人しか知らない。

一体何があったんだ、いきなりどうしたんだ、俺に一体何の用なのか。

思うところはたくさんあったが、「あの人」を一秒でも長く待たせる訳にはいかなかった。

こうなったら、最早覚悟を決めて飛び込むしかなかった。

「は、はい…っ!もしもし…」

俺は通話ボタンを押し、受話器を耳に当てた。

我ながら、声が上ずっているのが分かった。
< 95 / 522 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop