The previous night of the world revolution~F.D.~
急いで『青薔薇委員会』本部を飛び出して、空港に直行。

ルレイア殿の言った一時間の期限に間に合わなければ、どんな目に遭わされるか分からない。

俺が一時間以内に空港に辿り着けるかどうかで、箱庭帝国の未来が左右されると思うと。

そりゃもう、全力で、全速力で向かった。

ようやく無事に辿り着いた時、残り時間はあと8分位しかなかった。

ま、間に合った。

「はぁっ、はぁっ…。お、お待たせしましたルレイア殿…」

「おっと。早かったですね。もっと時間かかるかと思ってたんですけど」

それが、俺を見たルレイア殿の第一声だった。

そんな。あなたが一時間以内って言ったんじゃないですか。

…いや、やめよう。無事に辿り着いたんだからそれで良しってことで。

「そ、それよりルレイア殿…。今日は一体どう、し…」

ぜーぜーと息を整えながら、よくよくルレイア殿を見てみると。

…あれ?

…何だろう。物凄い違和感。

…ルレイア殿が、黒い服を着ていない。

何故だ。いつもなら、闇に溶けそうな真っ黒な服を着て、真っ黒なアクセサリーと、青い薔薇のブローチをつけているはずなのに。

今日のルレイア殿は、まるで別人のような格好だった。

しかも、それ以上に違和感があったのは。

「ルナニアさん。この方は?」

「あぁ、俺の知り合いの…箱庭帝国の専属ガイドさんですよ。今回の旅行の案内を頼んだんです」

「まぁ、そうなんですのね。宜しくお願い致しますわ」

ルレイア殿を「ルナニアさん」と呼んだ女性が、ぺこりと頭を下げてきた。

え、あ、え?

「ど、どうも…」

「わたくし、マリーフィア・ユール・カミーリアと言いますの。こちらのルナニアさんの妻ですわ」

「あ、そうなんですね。それはどうもご丁寧に…」

…え?

い…今、なんて言った?

つ、妻?妻って…?

いや、きっと聞き違いだ。慌てて空港まで来て息が上がってるから、聞き間違い、

「えぇ、そうなんです。俺達、新婚旅行に来たんですよ」

「しっ…!」

新婚旅行、だって?

よくよく見たら、ルレイア殿とマリーフィア殿は、左手の薬指にお揃いの指輪を嵌めていた。

あ、あれってもしかして…結婚指輪?

じ、じゃあ本当に…ルレイア殿は…。

目の前の状況が信じられない。

ルレイア殿が結婚する、と聞いただけなら、驚くことはなかっただろう。

むしろ、「あぁようやく結婚したのか」と素直に祝福したはずだ。

でも、その相手がこんな…見たこともない女性だなんて聞いてない。

だって、ルレイア殿は…。

「ど、どうしてなんですか?ルレイア殿は、ルルシー、」

と、俺が言いかけたその時。

ゲシッ、とルレイア殿に爪先を踏んづけられた。

「いっ…!」

「え?今何か言いました?」

足の指が折れたか、という凄まじい痛みも。

笑顔でこちらを振り向く、ルレイア殿の恐怖で掻き消された。

ひぇっ…。

けれど、これで分かった。

何か事情があるんですね。…言うに言えない事情が。
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