本当にこれがいつもと同じ桔梗なのか、信じられなかった。

きっとみんなが見ている桔梗はもっと無口で優しくなくて、笑わない、無愛想な人だ。
でも、やっぱり違う。

みんな、本物の桔梗を知らない。

桔梗は本当は、優しくて、夢に向かう強さがあって、心が綺麗な人だ。

お弁当箱をおいしそうに食べてくれる横顔を見つめながら、そんなことを考えていた。
私もハンバーグを口に運ぶと、デミグラスソースの少し濃い味がしっとりと舌に馴染んでいく。

「ハンバーグ、ハートになってるんだ」

気付くのが遅すぎて笑ってしまう。
いくら鈍感とはいえ、食べるときに気付くだろう。

「そう。可愛いでしょう?」

「まあまあだな」

そうやって私を馬鹿にしながらも桔梗の顔は笑っている。
そんなこと言って、どうせ嬉しいんでしょう。

桔梗は思いっきりハートを真ん中で二つに分けて食べている。
その方が食べやすいというのはわかるが、悲しく半分にされたハートの気持ちにもなってあげてほしい。

でも、そういうところにまで気が回らないのが桔梗だ。

いちいち桔梗の反応を気にして食べていたら食べるスピードが遅くなる。
私が半分食べる頃には桔梗はすでに完食していた。

「あー美味かった」

幸せそうな桔梗の横顔から、本当においしかったことがうかがえる。
ハンバーグくらい、誰が食べてもおいしいと感じるだろう。
それくらい定番メニューだ。

でも、ハンバーグ以外も満足そうに食べてくれて嬉しかった。
また作ってあげよう。
いつまでも食べ終われる気がしなくて、私はお弁当箱の蓋を閉めた。
< 115 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop