もちろん授業には間に合わなかった。
更衣室で着替えて、10分遅れぐらいで席につけた。
この1ヶ月で3回も保健室に行く人なんているんだ。
本当に怪我とか体調不良だからどうしようもないけど、この頻度はサボりと思われても仕方ないなと思う。
隣に桔梗がいないのが寂しい。
明後日には席替えがあるから、一緒にいれないのがもったいない。

「遅れましたー」

後ろのドアから桔梗の声が聞こえて、焦って振り向いた。
いつも通りの、元気そうな桔梗だ。よかった。
机に置いてある代数の教科書とノートを見た桔梗がにこっと笑った。

「準備しといてくれたんだ。ありがとう」

何よ、可愛い顔して笑わないでよ。

「もう大丈夫なの?」

目を合わせられるのがなんとなく恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。
照れ隠しみたいになったけど、別に心配してなかったわけじゃないし。
なんて言い訳して、ツンデレかよ、と心の中で笑った。

「まあたぶん、大丈夫」

曖昧だったけど、笑う余裕があるみたいでよかった。

「まだ無理しないでね」

ベタな優しい言葉をかけて不器用に笑った。
こういうとき、もっと上手いことが言えたらいいんだけど。
ただでさえ最近大人しくなってきていたから余計に静まってしまう。まだ何か話したい気持ちはあったけど、話すことも思いつかなくて代数の問題集に戻った。
そわそわして集中できない。
数センチの距離にいる桔梗を、なぜか少し遠くに感じた、
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