絶対零度の御曹司はおひとり様に恋をする
ぶっきらぼうな言い方だけど、私が変に気を使ったりしないように話してくれている気がする。社内の人間に対しては容赦ないはずなのにどうして?
まるで社外の人に接するような話し方に疑問が湧く。

でも彼にとって、私なんて取るに足らない存在なんだろう。とりあえず、無難に接してくれているのかもしれない。


まあ、例えそうだとしても、必要以上に関わらない方がいいことは分かる。彼に近づけば、それだけで注目を集めてしまう。私は定年までずっと今の会社にいたいと思ってる。だから女性社員たちに敵は作りたくない。目立たず、静かに。彼女たちにとって、道端に転がっている石くらいの存在でいたい。

「ありがとうございます。あの、それで話したいことと言うのは…」

私みたいな平社員に、雲の上に立つような人が話があるなんて。

「真下さんは、異動の話は聞いていると思うけど」
「あ、はい。聞いてます。営業部に…」
「そうだね。それで君は復帰明けから俺と組むことになった」
「私が…冬上さんと、ですか?」

空から突然槍が降ってきたような、それくらい冬上さんの話には威力があった。
経理部でやってきて、営業部のことは恐らく表面的にしか分かってないけど、自分がどれだけ向いてないかは十分過ぎるくらい分かっているつもりだ。

それでも、辞令だから仕方ないと思ったし、最低限の仕事をこなせるように努力しようと決めていた。

だけど、冬上さんと組んでとなれば話は全然違ってくる。彼の取引先は全て大手の会社で、うちの会社を支えていると言っても過言じゃない売り上げを叩き出してる。

今まで冬上さんのパートナーだった大塚さんは、精神的に不調が続いて現在心療内科に通っていて三か月の休職が決まったらしい。それで私に白羽の矢が立ったというわけだ。

だけど大塚さんは営業部の中でもベテランだ。畑違いの素人が突然担当したところで、迷惑をかけるのなんて目に見えてる。







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