絶対零度の御曹司はおひとり様に恋をする
「やっぱり聞いてなかったのか。もし知っていれば、名刺を見た時点で察して君が電話をしてくるだろうと思っていたんだ。でもしてこなかった。だから知らないんだろうと思ったが…。当たっていたな」


冬上さんの声は落ち着いている。私が混乱しているのも、電話の向こう側で簡単に見透かされている気にさえなる。


「あの、こんなことを言うのは差し出がましいのですが」
「遠慮なく言って」
「私には無理だと思います」
「無理って…。営業が?それとも俺と組むのが?」
「その…。冬上さんと組むのが、です」
「へえ…。どうして?」
「そもそも、私は営業向きではないと思うんです。経理部の仕事は、正確性を一番に求められます。自分が真面目にやれば、そこにたどり着けるんです。それが私の性格に合っていました。でも営業とか、企画とかは違いますよね。相手があるし、真面目なだけでは通用しない世界ですよね。それに、冬上さんは毎月営業部の中でトップを走り抜いているのは社内の人であれば、誰でも知っています。
そのパートナーとなれば、やっぱり、冬上さんについていけるような人でないとダメだと思うんです。ーーー以上が理由です」

順序立てて話したつもりだけど、上手く伝わっただろうか。
だけど電話で良かった。あの冬上さんを目の前にしたら、思っていることの二割とか、良くて三割言えたらいい方だった。

だけど本当にわからない。
どうして私が、冬上さんなんかと組むことになったのか。
一体誰がそんなことを考えたのか。

「なるほど。真下さんの考えていることは分かった」
「ーーーそれなら」
「君には悪いけど、異動辞令は絶対だ。よほどの理由がない限り変更はあり得ない。それは君も承知しているから受けたんだろ?」
「それは…そうです」
「君は向いてないと言うが、やってみなければ分からないんじゃないか。それに営業だろうと経理だろうと、仕事の基本は同じだ。どう向き合うかだ。君が経理で真面目に取り組んでいたと言えるなら、その姿勢を営業でも続ければいい」


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