絶対零度の御曹司はおひとり様に恋をする

都心部から少し離れた場所にある私の勤め先は、社名を出せば十人中九人にはわかると言われる有名企業だ。


江戸時代に飲食物を売ることから始まった小さな商店は、やり手だった創業者の手腕により様々な分野に手を広げた。そして先見の目もあり、市場をアジア全体から世界へと拡大。株式に上場する一流企業となった。私はこの会社で、経理を担当している。


「真下さん。来た早々で悪いけど、部長が呼んでる」
「部長がですか?」
「珍しいよね」

何かしでかした?と、同僚の井上さんが冗談まじりに言った。


確かに課長なら仕事の話で割と良くあるけど、部長からの呼び出しなんて滅多にない。よほどの問題が起きたときくらいだ。


石橋に先ず石を転がして、それから投げてみて、次に何度か叩いてみる。そして最後に、10トントラックに先を走らせてみてから大丈夫だと安心して渡る。私の性格を例えるならそんな感じ。昔から学校のテストだって綿密な計画を立てて実行し、終われば計画の見直しをして次回に生かしてきた。仕事でもそれは同じだから、失敗という失敗を、今まで一度もしたことがない。



唯一、私の人生で失敗と呼べるものがあるとすれば、高校二年生の時だけだ。








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