絶対零度の御曹司はおひとり様に恋をする
冬上怜。彼には別の名前がある。それが絶対零度。彼の名前を紐解いて、冬よりも上だからとてつもなく寒く、怜は零度を表すとかこじ付けた人がいるらしいけど、そもそも、こじつけられた理由がある。


営業部で他者の追随を許さないほどの実績を上げ続けている彼は、ミスターパーフェクトと呼ばれるほど失敗したことがない。そしてそれを周りの人間にも当然のように求めてくる。


彼と組んで失敗した人たちは、彼からの冷たい視線と言葉に泣いてしまったり、自己嫌悪に陥ってしまうのだけれど。

更に追い討ちをかけるように、そうなった人たちに淡々と失敗により出した損失を取り戻すべく倍量の仕事を与えるらしい。

そんな彼のやり方を止められる人間は社内ではほとんどいない。会長と社長の二人だけだ。なぜなら彼は創業者の曾孫であり、現社長の長男だから。


私も何度か彼を見たことがある。取引先の相手と歩いているのを見かけたこともあるし、経理部へ来たこともある。


確かに華やかな人だ。
優に180は越してそうな長身に、何頭身か数えたくなるほどの顔の小ささや、すらりと伸びた長い手脚。そして、非の打ち所がない整った顔。芸能人だと言われたら疑う人はまずいない。


同じ会社の人。だけど私とは、領収書の取り扱い以外で関わることはないはず。


私はそう信じていた。








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