猫に生まれ変わったら憧れの上司に飼われることになりました
そう思うのに健一には伝わらなくて、ジワリと視界が滲んできた。
まるで世界で一人ぼっちになってしまったかのような孤独感が胸の中を支配する。

言葉の壁はどこまでも分厚いものなのだと、猫になって実感させられた。
「ミーコ。すごいぞ、こっちへおいで」

なにがすごいのか、ミーコはテーブルの下からキッと健一を睨みつけた。
今はひとりになりたいのにそれも許されずテーブルの下からずるずると引きずり出されてしまう。

手の中で必死に暴れてみても健一は離してくれなかった。
こんなに強引に扱われることは初めてだった。

なによ!
と、大きな声で一声鳴いた時、尚美は山内の腕の中にいた。

健一とは違う女性の手の中にドキリとする。
柔らかくて繊細で、だけどどこか力強さを感じる山内の腕。
< 111 / 219 >

この作品をシェア

pagetop