猫に生まれ変わったら憧れの上司に飼われることになりました
これだけの車が行き交っている中で猫を歩助けに向かうのは至難の業だ。
下手をすれば自分が車に引かれてしまう。

それに、今横断歩道へ飛び出していくような勇気もなかった。

可愛そうだけれど、ここは仕方ないと思って……。
目をつむろうとした、そのときだった。

白い軽自動車が他の車を追い越してスピードを上げて走ってくるのが見えた。
あれじゃ猫を認識する暇もないだろう。

周りの人たちも「あぁ……」と、小さなため息を吐いて猫から視線をそらし始めた。
子猫はヨロヨロと立ち上がり、その場から逃げようとしている。

だけど、その速度で逃げ切れるとはとても思えなかった。

人々は目をそらし、悲惨な瞬間を目撃しないようにしている。
尚美もそうしていたはずだったのだけれど……。

ミャア。
それはたった一声だった。

車や人の声に簡単にかき消されてしまうような小さな声。
だけどその声は尚美の胸に確かに響いた。
< 4 / 219 >

この作品をシェア

pagetop