嘘と恋とシンデレラ
第一章 ひび割れた夢
第1話
童話のお姫様はみんな、運命の王子様と出会う。
ふたりは恋に落ちて、深い愛で永遠に結ばれる。
いつか、わたしもそんな幸せを掴むんだ────。
◇
「……ろ。こころ……」
囁くような誰かの声が耳の隙間から滑り込んできた。
何だか眩しさを感じて、うっすらと目を開ける。
「こころ!」
霞んだ視界いっぱいに誰かの顔が飛び込んできた。
(誰……?)
少し着崩した制服姿の男の子。
やがて焦点が合うと、心配そうに見つめられていることが分かった。
「よかった、目覚ましてくれて……。焦った」
彼はわたしの手を握り締めたまま、かたんと椅子に座り直す。
途端に、ちかっと眩しい光が目を刺してきた。
「あ、ちょっと待ってろ。カーテン閉めるから」
立ち上がった彼が窓に寄っていく。
射し込んでくるオレンジ色の光。夕日だろうか。
ぼんやりした頭はまだ覚醒しきっておらず、何ごとも意識に引っかかることなく流れていった。
(ここ、どこ?)
きょろきょろと何気なく辺りを見回す。
真っ白くて清潔な空間────病室?
そう認識すると、つん、と消毒のような特有のにおいが鼻についた。
(わたし、何でこんなところに……)
そう思った瞬間、ずきんと頭に痛みが響いた。
「……っ」
「おい、大丈夫か?」
思わず額に触れると、慌てたような彼に支えられる。
知らない温もりが少し怖くて、びくりと身が強張った。
遠慮のない距離感。
当たり前のように触れられたけれど、図らずも緊張が高まった。
「あ、あの……」
鳴り響く頭痛が不安を煽る。
心臓が重たげな音を加速させた。
分からない。
自分がどうして病院にいるのか。何があったのか。
そもそも────。
「誰ですか? あなたは……」
彼は衝撃を受けたように怪訝な表情を浮かべ、まじまじと見返してきた。
「お前……」
いったい誰なんだろう。
わたしのことを知っているみたいだけれど。
(あれ?)
わたしのことを?
(わたし……)
わたしって、誰だっけ?
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