嘘と恋とシンデレラ
     ◇



 その日からまた、隼人と過ごす時間が増えた。

 今度は渋々従っているわけではなく、わたしの意思がちゃんとある。

 過去とか、もともとの関係とか、そういう要素を抜きにしても、もう一度やり直すことを前向きに考えていた。

 本心を明かしてくれた隼人とは、間を(へだ)てていた壁が低くなっていっそう近づいた気がする。

 彼は以前ほどの束縛をしなくなったし、わたしに独善(どくぜん)的な愛を()いることもなくなった。

 登校後、昇降口で靴を履き替えたわたしはスマホを取り出す。
 屋上での言葉を思い出した。

『待ってるから』

 隼人の真意があのとき語られた通りなら。

 響也くんの優しさはまやかしで、倒錯(とうさく)した愛を押しつけられていただけだったのなら。

 ────気持ちは固まった。
 わたしを守って救おうとしてくれていた、隼人の想いに応えたい。

 メッセージアプリを開く。
 響也くんのアカウントを削除しておいた。

 隼人に対する返事は会ってから直接言おう。
 そう思いながらスマホをポケットに戻す。

「……!」

 廊下の方へ足を向けたとき、視線を感じた。
 階段横の壁際に立っている響也くんと目が合う。

(あ……)

 屋上での一件以降、彼はこんな調子だった。

 遠巻きにわたしたちの様子を窺っているようだけれど、直接のアクションはない。

 隼人といるときは気付いても気にかけないよう意識を逸らしていた。
 ……だけど、何だか今は無視しちゃいけない気がする。

 その頬に貼られた絆創膏を見つめた。
 本当はずっと、負わせてしまった傷のことが気にかかっていた。

 呼ばれているような気がして、わたしは彼の方へ歩み寄る。

「そ、の……あのときはごめん。怪我、大丈夫?」

 恐る恐る声をかけ、ばっと頭を下げた。

 どんな経緯(いきさつ)があったって、傷つけていい理由にはならない。

「…………」

 しばらく沈黙が続いた。
 さすがに許してもらえないかもしれない、といたたまれなくなったとき、やがて彼が口を開く。

「……ねぇ、本当にこれでいいの?」

 思わぬ言葉が返ってきて、戸惑いながら顔を上げた。

「え」

 響也くんから、いつもの優しげな色は窺えなかった。
 いつもの余裕もまるでない。

 彼の言っている意味が完璧に分かったわけじゃなかった。
 けれど、意思によらず心臓が跳ねる。

 核心(かくしん)を突かれたみたいに、なぜかざわざわする。

「こころ!」
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