嘘と恋とシンデレラ
     ◇



 彼と復縁してから1週間近く経った。

 響也くんのことを忘れようとなるべく頭から追い出し、隼人と過ごす日々を送っている。

「貸して」

 昼休み、いつものように教室へ来た隼人は開口(かいこう)一番に言った。

 わたしは大人しくスマホを差し出す。
 何もないと分かっていても、毎日こうして確かめないと不安みたい。

 それだけわたしを思って大事にしてくれている、ということだ。
 きっと、そうだ。

 他愛もない話をしながら一緒に昼食をとり、チャイムが鳴る前に彼は戻っていく。

 入れ替わるようにして教室へ入ってきた心配そうな面持ちの小鳥ちゃんに声をかけられた。

「大丈夫なの?」

 彼女には隼人と再び付き合い始めたことを伝えていた。
 保健室のこともあってかなり驚かれたし、何度もこうして案じてくれている。

「全然だよ。……隼人は変わろうとしてるの。優しくなったし」

 小さく笑いながら答えると、小鳥ちゃんは「んー」と考えるように腕を組んでから頷く。

「まあ……そうなのかなぁ。確かに前みたいに睨まれることはなくなったけど」

 椅子に腰を下ろし、身体ごとこちらに向き直った。
 人懐っこい笑顔をたたえながら。

「こころがいいならそれでいい」



 チャイムが鳴り、午後の授業が始まる。
 わたしはそっと袖を捲ってみた。

「…………」

 顔を覗かせる紫色の痣────。
 腕のほか、普段は見えないところにいくつも刻まれている。

(大丈夫)

 そう言い聞かせながら唇を噛み締めた。

 確かに隼人は変わり始めている。
 わたしが我慢していれば、そのうち本当に分かってくれるはずだ。

(殴られたり蹴られたりしてもすぐに謝ってくれるし、そしたら優しい隼人に戻るし……)

 彼だけが悪いわけじゃない。
 わたしにだって非があるのだ。これは仕方のないこと。

 わたしがもっと、ちゃんとしないといけないんだ。

 彼はただ、不器用なだけ。

『どんなときでも俺を信じて、優先してくれて、素直で可愛くて……。俺にはこころしかいない、って思ってた』

(わたしだけが分かってあげられる。隼人にはわたしが必要なんだ)

 心の中で唱え、痣を撫でる。
 これは、愛されている証拠。

 愛を信じることは痛み止めだ。

 小鳥ちゃんに心配されるようなことなんてない。

 大丈夫。
 わたしの選択は間違ってなんかいない。
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