嘘と恋とシンデレラ
そうやって自分の本心を確かめていた。
わたしはやっぱり隼人を信じたい。
本当は優しい彼を。
わたしだけを想ってくれる彼を……。
◇
隼人の家を出る頃にはすっかり日が落ちていた。
青みがかった黒い空には三日月が霞んでいる。
鞄を肩にかけ直し、夜道を歩き出した。
持ち手の部分がちょうど痣に当たって痛んだため、位置をずらして何度も持ち直す。
「……?」
しばらく行ってから、思わずぴたりと足を止める。
(何か……)
どこかから視線を感じるような気がする。
言い知れぬ恐怖と不安が込み上げ、警戒しながら辺りを見回した。
けれど、一見して不審な影は見当たらない。
(気のせい?)
そう思い直して再び歩き出す。
しかし一度気にしてしまうと簡単には割り切れなくなり、不安になって何度も後ろを振り返ってしまった。
そんな調子で歩を進め、例の歩道橋にさしかかる。
ここまで来ると人通りもほとんどない。
わたしは足早に階段を上っていった。
(早く帰ろう)
視線なんて気のせいかもしれないけれど、何だか胸騒ぎがおさまらない。
奇妙な恐怖心が膨らみ、少し歩速を上げた。
階段を下りようと足を踏み出したとき、不意に耳を掠めた微かな靴音。
それは確かに、背後から聞こえた。
「……!」
どん、と背中に何かが当たる。
はっと息を呑んだ瞬間には、足元から地面が消えていた。
バランスを失った身体が宙に投げ出される。
どうすることも出来ずに、全身を段差に打ちつけながら転がり落ちていった。
「う……っ」
どさ、と地面に着地したあとも、視界が回り続けているような感覚が続く。
身体中に鈍い痛みが響いた。
頭がぼーっとして力が入らない。
(痛、た……)
霞んだ視界の端を、黒い触手のような影が覆い尽くしていく。
わたしはそのまま眠るように意識を手放した。