嘘と恋とシンデレラ

 そうやって自分の本心を確かめていた。

 わたしはやっぱり隼人を信じたい。

 本当は優しい彼を。
 わたしだけを想ってくれる彼を……。



     ◇



 隼人の家を出る頃にはすっかり日が落ちていた。
 青みがかった黒い空には三日月が霞んでいる。

 鞄を肩にかけ直し、夜道を歩き出した。
 持ち手の部分がちょうど痣に当たって痛んだため、位置をずらして何度も持ち直す。

「……?」

 しばらく行ってから、思わずぴたりと足を止める。

(何か……)

 どこかから視線を感じるような気がする。

 言い知れぬ恐怖と不安が込み上げ、警戒しながら辺りを見回した。
 けれど、一見して不審な影は見当たらない。

(気のせい?)

 そう思い直して再び歩き出す。

 しかし一度気にしてしまうと簡単には割り切れなくなり、不安になって何度も後ろを振り返ってしまった。

 そんな調子で歩を進め、例の歩道橋にさしかかる。

 ここまで来ると人通りもほとんどない。
 わたしは足早に階段を上っていった。

(早く帰ろう)

 視線なんて気のせいかもしれないけれど、何だか胸騒ぎがおさまらない。
 奇妙な恐怖心が膨らみ、少し歩速(ほそく)を上げた。

 階段を下りようと足を踏み出したとき、不意に耳を掠めた微かな靴音。

 それは確かに、背後から聞こえた。

「……!」

 どん、と背中に何かが当たる。

 はっと息を呑んだ瞬間には、足元から地面が消えていた。

 バランスを失った身体が宙に投げ出される。

 どうすることも出来ずに、全身を段差に打ちつけながら転がり落ちていった。

「う……っ」

 どさ、と地面に着地したあとも、視界が回り続けているような感覚が続く。

 身体中に鈍い痛みが響いた。
 頭がぼーっとして力が入らない。

(痛、た……)

 霞んだ視界の端を、黒い触手(しょくしゅ)のような影が覆い尽くしていく。
 わたしはそのまま眠るように意識を手放した。
< 106 / 152 >

この作品をシェア

pagetop