嘘と恋とシンデレラ
「……この間のこともあるので、念のため今日は入院してください」
一通り説明すると、お大事に、と言い残して先生は病室から出ていく。
扉が閉まった瞬間、舞い戻ってきたぴりぴりと鋭く尖るような空気感に肌を刺された。
隼人が鋭く響也くんを睨めつける。
「お前は出てけよ」
「僕が従うと思う?」
お互いに譲る気配はまったくない。
苛立ったように隼人は舌打ちした。
響也くんを追い立てることは一旦諦めたのか、わたしの方へ向き直る。
「なあ、本当に自分で落ちたのか?」
どきりとした。
押された感触が背中にありありと蘇ってきて、ぞっとしてしまう。
どう答えるべきか迷っているうちに、響也くんが口を挟む。
「きみが突き落としたんだろ」
それを受けて「は?」と低く返した隼人は神経質そうに眉を寄せた。
苛立ちを顕に立ち上がると、がたん、と後ろに椅子が倒れる。
「そんなわけねぇだろ。いい加減にしろよ!」
噛みつくように響也くんの胸ぐらを勢いよく掴む。
だけど彼も彼で一切怯んだ様子はない。
「……どうやってこころを丸め込んだか知らないけど、いつまでも騙せると思わないでよ」
「はあ? 適当なこと抜かしてんじゃねぇよ!」
「僕がいる限り、きみの好きになんてさせないから」
「てめ────」
「もうやめて!」
激化していく口論に耐えかね、わたしは言った。
もうたくさんだ。
彼らの思惑に翻弄され、怯えることしか出来ないなんて。
「ふたりとも出てって。お願いだから……今はひとりにして」
どちらかは、あるいはふたりともが確実に嘘つきで、わたしを突き落としたくせに平然と心配するふりをしている。
そんな事実に身震いすると同時にうんざりした。
沈黙が落ちてからややあって、隼人が緩慢と動き出す。
何か言いたげな視線を残しつつも出ていった。
残った響也くんにも同じような眼差しを寄越される。
だけどわたしは俯いたまま気付かないふりをして、顔を上げないようにしていた。
「……ごめんね」
彼は小さく一言告げると、扉をスライドさせて病室を後にする。
ひとりになると、混乱を吐き出すようにため息をついた。
今になって身体中の傷が疼く。
目を閉じ、昨晩のことを思い出す。
(わたし……)
歩道橋の階段の上から、確かに背中を押された。
後をつけてきた誰かに。
状況的に、ふたりのうちのどちらかのはずだ。
「どっち……?」